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白氏文集卷十四 暮立2009年10月06日

暮に立つ     白居易

黄昏獨立佛堂前  黄昏(くわうこん) 独り立つ 仏堂の前
滿地槐花滿樹蟬  満地の槐花(くわいくわ) 満樹の蝉
大抵四時心總苦  大抵(おほむね)四時(しいじ)は心すべて(ねんごろ)なり
就中腸斷是秋天  就中(このうち)(はらわた)の断ゆることはこれ秋の天なり

【通釈】黄昏時、独り仏堂の前に立つと、
地上いちめん槐(えんじゅ)の花が散り敷き、樹という樹には蝉が鳴く。
おおむね四季それぞれに心遣いされるものであるが、
とりわけ、はらわたがちぎれるほど悲しい思いをするのは秋である。

【語釈】◇槐花 槐(えんじゅ)の花。中国原産のマメ科の落葉高木で、夏に白い蝶形花をつける。立秋前後に散る。◇心總苦 訓は和漢朗詠集(岩波古典大系)に拠る。「心すべて苦しきも」などと訓む本もある。◇腸断 腸が断ち切れる。耐え難い悲しみを言う。『世説新語』、子を失った悲しみのあまり死んだ母猿の腸がちぎれていたとの故事に由来する。◇秋天 単に秋のことも言う。

【補記】元和六年(811)秋の作。作者四十歳。「大抵四時」以下の句は和漢朗詠集に引用されている。

【影響を受けた和歌の例】
いつとても恋しからずはあらねども秋の夕べはあやしかりけり(読人不知『古今集』)
いつはとは時はわかねど秋の夜ぞ物思ふことの限りなりける(読人不知『古今集』)
おしなべて思ひしことのかずかずに猶色まさる秋の夕ぐれ(藤原良経『新古今集』)
さくら花山ほととぎす雪はあれど思ひをかぎる秋は来にけり(藤原定家『拾遺愚草員外』)

【参考】夕かげなるままに、花のひもとく御前のくさむらを見わたし給ふ、もののみあはれなるに、「中に就いて腸断ゆるは秋の天」といふことをいと忍びやかに誦じつつ居給へり(源氏物語・蜻蛉)