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白氏文集卷十五 燕子樓2009年11月11日

燕子楼   白居易

滿窗明月滿簾霜  満窓(まんさう)の明月、満簾(まんれん)の霜
被冷燈殘払臥床  ()は冷やかに、(とう)(うす)れて臥床(ふしど)を払ふ
燕子樓中霜月夜  燕子楼(えんしろう)(うち)霜月(さうげつ)()
秋來只爲一人長  秋(きた)つて(ただ)一人(いちじん)の為に長し

【通釈】窓いっぱいに輝く月、簾いちめんに降りた霜。
掛布は冷ややかで、燈火は寝床をうすく照らしている。
燕子楼の中で過ごす、霜のように冴えた月の夜は、
秋になって以来、ただ私ひとりのために長い。

【語釈】◇燕子樓 徐州の長官、張氏の邸内の小楼。張氏の愛妓眄眄(めんめん)が、張氏の死後十余年ここに住んで独身を守った。楼の名は二夫を持たないという燕に因む。◇只爲一人長 自分にとってだけ長いのかと嘆く心。夫を失った独り身ゆえに、夜が一層長く感じられる。

【補記】「燕子楼」三首の一。燕子楼に孤閨を守る女性の身になって作った詩。楼に愛妓を囲っていた張氏は作者と旧知の間柄であり、実話に基づく詩である。和漢朗詠集の「秋夜」に第三・四句が採られている。

【影響を受けた和歌の例】
月みれば千々に物こそ悲しけれ我が身ひとつの秋にはあらねど(大江千里『古今集』)
ひとりぬる山鳥の尾のしだり尾に霜おきまよふ床の月影(藤原定家『新古今集』)
ひとりのみ月と霜とにおきゐつつやがて我が世もふけやしにけむ(藤原良経『新続古今集』)

【参考】『狭衣物語』巻四
文のけしきなども、ただおほかたに思はせたるなつかしさをば、おろかならぬさまに言ひなさせ給へるさまなども、さし向かひ聞こえさせたる心地のみせさせ給ひて、いとど御とのごもるべうもなければ、「燕子楼の(うち)」とひとりごたれ給ひつつ、丑四つと申すまでになりにけり。