詩經 國風 七月 ― 2009年11月24日
七月
五月斯螽動股 五月
六月莎鷄振羽 六月
七月在野 七月 野に
八月在宇 八月
九月在戸 九月
十月蟋蟀 十月
入我牀下 我が
穹窒熏鼠
塞向墐戸
嗟我婦子
曰爲改歳
入此室處 此の
【通釈】五月になれば
六月にはこおろぎが羽を振わして鳴く。
七月、彼らは野にあり、
八月、軒下にあり、
九月、家の戸口にあり、
十月になると、こおろぎは、
我が床の下に入り込む。
さて家を掃除して鼠をいぶし、
天窓を塞いで戸の隙間を塗る。
ああ、我が家族たちよ、
無事年越しをするために
この居間に籠っておりなさい。
【語釈】◇五月 陰暦五月、仲夏。新暦ではおおよそ六月中頃~七月頃に当たる。◇斯螽 螽斯とも。きりぎりす。◇莎鷄 きりぎりす・こおろぎの類。◇宇 屋根に覆われたところ。軒下。◇蟋蟀 こおろぎの類。よく人家に入って来るのはカマドコオロギである。カマドコオロギは「キリキリキリ…」と鳴くので、昔日本ではこれを「きりぎりす」と呼んだ。◇穹窒 室を掃除する。◇熏鼠 煙で鼠をいぶし出す。◇向 天上につけた明り取りの窓。◇墐戸 土を塗って戸の隙間をふさぐ。◇婦子 女と子供。◇改歳 年越し。
【補記】中国最古の詩集『詩経』、国風のうち
【影響を受けた和歌の例】
秋ふかくなりにけらしなきりぎりす床(ゆか)のあたりに声聞こゆなり(花山院『千載集』)
露しげき野辺にならひてきりぎりす我が手枕の下になくなり(前斎院六条『金葉集』)
きりぎりす夜寒に秋のなるままに弱るか声の遠ざかりゆく(西行『新古今集』)
きりぎりす草葉にあらぬ我が床の露をたづねていかでなくらむ(藤原良経『千五百番歌合』)
きりぎりす我が床ちかし物思ふと寝ぬ夜の友はなれも知りきや(中院通勝『通勝集』)
きりぎりす霜の下葉を我が床のよさむにかへて鳴きや寄るらん(中院通村『後十輪院内府集』)
注:西行の歌は、虫はだんだん人に近づいて来るのにその声は遠ざかってゆくと聞いているところに哀れがある。掲出詩を踏まえてこそ味読し得る歌である。
コメント
トラックバック
このエントリのトラックバックURL: http://yamatouta.asablo.jp/blog/2009/11/24/4719088/tb
※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。
最近のコメント