白氏文集卷三十四 杪秋獨夜 ― 2009年11月28日
無限少年非我伴 限り無き
可憐淸夜與誰同 憐れむ
歡娯牢落中心少
親故凋零四面空
紅葉樹飄風起後
白髮人立月明中
前頭更有蕭條物
老菊衰蘭三兩叢
【通釈】あまたの若者は、我が友ではない。
いつくしむべき清らかな夜を誰と過ごそう。
娯楽は虚しくなり、我が心中はからっぽだ。
親戚旧友は世を去って、我が周囲はうつろだ。
紅葉した木をひるがえして、風が起こった後、
白髪の人たる私は立ち上がる、月明かりの中に。
目の前には更に蕭条たるものがある。
老いた菊、衰えた藤袴、それら二三の叢。
【語釈】◇杪秋 晩秋。陰暦九月。◇無限 数多い。数知れぬ。◇歡娯 楽しみ。◇牢落 空漠となる。虚しくなる。◇中心 心の中。◇親故 親戚や旧友。◇凋零 花や葉がしぼみ落ちることから、人の死ぬことを言う。◇白髮 白鬚(白いあごひげ)とする本もある。◇衰蘭 衰えた藤袴。
【補記】最後の二句が和漢朗詠集巻上秋「蘭」の部に引用されている。下記慈円・定家詠はいずれも掲出詩の句を題として詠まれた、いわゆる「句題和歌」である。
【影響を受けた和歌の例】
秋の霜にうつろひゆけば藤袴きて見る人もかれがれにして(慈円『拾玉集』)
ふぢばかま嵐のくだく紫にまた白菊の色やならはん(藤原定家『拾遺愚草員外』)
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