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千人万首に堀田一輝をアップ2009年12月10日

千人万首に堀田一輝をアップしました。三首。近世前期、徳川光圀と同時代の人で、幕府の御留守居を勤めた旗本です。
光圀が編ませた地下歌人の和歌撰集『正木のかづら』では光圀に次ぐ十四首を採られ、地下歌壇で重んじられていたことが知られます。入撰歌は佳詠ばかりと言って過言でなく、社会的地位の高さゆえ撰歌基準を甘くされたなどということはなさそうです。
千人万首には採らなかった歌よりいくつか挙げてみましょう。

  野春雨
矢田の野のあさぢ色そふ春雨にあらちの山の雪や消ぬらむ
  河夕立
駒とめて待つほどもなく晴れわたるひのくま河の夕立の空
  河月
水無瀬川水のうき霧末はれて山もと遠く月ぞほのめく
  霜
さゆる夜のあらしの後にむすぶらし朝の霜のあさぢふの庭

万葉集や代々勅撰集の名歌の語彙・歌枕・情趣などを巧みに取り入れ、しかも新味をひとふし添えています。音調にも細心の注意が払われ(最後の歌の「あ」の頭韻など)、よほど和歌に入れ込んでいないと作れないような歌ばかりです。武士が余技として和歌を楽しんだなどというレベルからは懸け離れています。
注目すべき幕臣歌人だと思うのですが、各種の人名辞典を調べても、この人の記載は見つからず、生没年も系譜も知ることができません。

唐詩三百首 江雪2009年12月10日

江雪     柳宗元

千山鳥飛絶  千山(せんざん) 鳥飛ぶこと絶え
萬徑人蹤滅  万径(ばんけい) 人蹤(じんしよう)(めつ)
孤舟蓑笠翁  孤舟( こ しう) 蓑笠( さ りふ)(をう)
獨釣寒江雪  独り釣る 寒江(かんかう)の雪

【通釈】山という山には鳥の飛ぶ影が絶え、
(みち)という径には人の足跡が消えた。
一艘の小舟に、蓑と笠をつけた(おきな)
ただ独り釣をしている、雪の降る寒々とした川で。

【語釈】◇萬徑 多くの小道。「萬逕」とする本もある。◇寒江 寒々とした川。普通名詞。

【補記】政治改革運動に失敗して永州に流されていた時の作という。「千」と「萬」、「孤」と「獨」が対偶をなし、この上なく端整簡潔なスタイルに孤愁みなぎる五言絶句。評者の多くは孤舟の翁に詩人の自画像を見る。

【作者】柳宗元(773~819)は中唐の詩人。河東(山西省永済県)の人。徳宗の貞元九年(793)の進士。永貞元年(805)順帝の即位と共に礼部員外郎に任ぜられ、政治刷新運動に参加するが、順帝の退位によって改革は失敗、永州(湖南省零陵県)の司馬に流された。元和十年(815)、都に召還され、柳州(江西省柳江)の刺史に任ぜられて同地に赴き、間もなくそこで死んだ。散文家としても知られ、『柳河東集』四十五巻を残す。

【影響を受けた和歌の例】
降りつもる雪には跡もなごの江の氷を分けて出づる釣舟(頓阿『頓阿句題百首』)
鷺のゐる舟かと見れば釣人の蓑しろたへにつもる白雪(正徹『草根集』)
島山の色につづきて釣夫(つりびと)の着る笠白したそがれの雪(橘曙覧『志濃夫廼舎歌集』)