雲の記録20091221 ― 2009年12月21日
白氏文集卷十八 冬至夜 ― 2009年12月21日
冬至の夜 白居易
老去襟懷常濩落 老い去りて
病來鬚鬢轉蒼浪 病み
心灰不及爐中火
鬢雪多於砌下霜
三峽南賓城最遠
一年冬至夜偏長 一年 冬至
今宵始覺房櫳冷
坐索寒衣托孟光
【通釈】年老いて、わが胸中は虚ろだ。
病み衰えて、あご髭もほお髭も真白だ。
灰のように燃え尽きた心は、炉の炭火にも及ばず、
雪のような鬢の白髪は、敷石の下の霜よりも多い。
三峡のうち、ここ忠州は長安の都から最も遠く、
一年のうち、冬至の今日は夜がこの上なく長い。
今宵初めて感じた、部屋の冷え冷えとしていることを。
じっとしたまま、冬着を請うて愚妻にすがるのだった。
【語釈】◇老去 年老いる。◇襟懐 胸のうち。◇濩落 空虚なさま。◇鬚鬢 鬚はひげ、特にあごひげ。鬢は頭の左右側面の髪、または頬ひげ。◇蒼浪 蒼白いさま。◇心灰 灰のように燃え尽きた心。◇鬢雪 雪のように白い鬢の毛。◇砌下霜 「砌」は軒下の石を敷いたところ。その石の前に置いた霜。◇三峽 長江の名高い三つの峡谷。◇南賓 忠州(重慶市忠県)の古名。◇房櫳 部屋。◇坐 いながらに。じっとしたまま。◇寒衣 寒い時に着る服。冬着。◇托 相手を頼みとしてその力に縋る。「」とする本もあり、この場合「ねだる」ほどの意になる。◇孟光 『蒙求』『後漢書』などに見える後漢の梁鴻の妻。貧しい隠者の賢妻の代名詞として、詩人は自身の妻をこう呼んだ。
【補記】冬至の夜、老いを嘆く。大江千里『句題和歌』に第三句・第四句・第六句を句題とする和歌が見える。また藤原基俊撰の『新撰朗詠集』巻上冬の「炉火」の部に第三・四句が採られている。
【影響を受けた和歌の例】
もの思ふ心は灰とくだくれど熱き
我が髪のみなしら雪と成りぬればおける霜にもおとらざりけり(同上)
ひととせに冬来ることは今ぞしる臥し起きすれば明かしがたさに(同上)
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