歌枕:いたち川(神奈川県横浜市栄区) ― 2010年07月19日
先週の金曜、横浜市栄区に要あつて出向き、通りかかつた川のほとりに和歌の案内板を見かけた。兼好法師が「いたちがは」の名を各句の頭に詠みこんだ折句歌だといふ。
いかにわが たちにしひより ちりのきて かぜだにねやを はらはざるらん
帰宅して『兼好法師集』を繙くと、次のやうに出てゐた。
さがみの国いたち河といふところにて、このところの名を句の
頭 に据ゑて、旅の心をいかに我がたちにし日より塵のゐて風だに閨を払はざるらん
締め切つた閨には風も吹かず塵が積もつたことだらうと、旅先から洛外の庵を思ひやつた歌。二度目の東下りの際の旅中詠で、相模国では他にこよろぎの磯(大磯市)、金沢(横浜市金沢区)でも歌を残してゐる。
さて《いたち川》は今も同じ名で呼ばれてゐる二級河川で、横浜市栄区を流れて柏尾川に注ぎ、柏尾川は藤沢市で境川に合流して相模湾に至る。「いたち」の字は「㹨」といふ珍しい字を用ゐるのが正式らしい。
川沿ひは緑豊かな遊歩道になつてゐて、木陰が心地よい。高度成長期にはコンクリートの護岸を築いたといふが、水質が悪化したため1980年代に水辺の復元工事を始め、今ではかなり自然が回復してゐる様子だ。都市河川の擬似自然護岸として、海外からも注目されてゐるといふ(参考:ウェブサイト「いたち川」)。
少し上流に溯ると、いたちの親子が遊んでゐた。魚を狙つてゐるのだらうか、ぴくりとも動かない。
「いたち川」の語源は「いでたち川」かといふ(Wikipedia)。栄区は横浜市の南端、鎌倉市と隣接する地で、かつては相模国鎌倉郡に属した。古人はこの川を渡り、鎌倉から各地へ「出で立つ」て行つたのだらう。
兼好の歌以外に詠まれた例は見つからないので、《歌枕》と呼んでよいかにはためらひがある。もう少し探してみるとしよう。
(2012年10月10日加筆訂正)
コメント
_ 3263(サブローサン) ― 2012年10月10日 02時00分
_ 水垣 ― 2012年10月10日 23時57分
良い散歩道をお持ちですね。
鳥のことはよく知らないのです。
多分お役に立てないと思います。
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いたち川を散歩します。
いたち川を飛び交う野鳥の名前を知りたいです、
是非教えてください。
写真を送ることが出来れば送りますが?