玉台新詠卷二 淸風動帷簾 ― 2010年09月23日
情詩五首より 張華
淸風動帷簾
晨月燭幽房
佳人處遐遠
蘭室無容光
衿懷擁虛景
輕衾覆空牀
居歡惜夜促
在戚怨宵長
撫枕獨吟歎 枕を
綿綿心内傷
【通釈】すがすがしい風が
有明の月が昏い室内を照らしている。
夫は遥か遠方にあって、
妻の部屋にその麗姿はない。
胸の中にむなしく幻影を抱きながら、
薄い夜具に包まれて独り寝る。
嬉しい時には、夜の短かさを惜しみ、
悲しい時には、宵の長さを怨む。
枕を撫でては独り泣きうめき、
心のうちの苦しみは綿々とやむことがない。
【語釈】◇蘭室 蘭は香しい草花のことで、芳香のある室のことであるが、ここは女性の居室を言う。◇容光 (夫の)美しい姿。◇虛景 幻影。◇空牀 独り寝の床。
【補記】「情詩」五首の第三首。夫が遠方に赴任し空閨を守る妻の立場で詠んだ閨怨詩。文選巻二十九にも収められている。額田王の歌「君待つと…」はこの詩の冒頭句の影響を受けたとみる説がある。
【影響を受けた和歌の例】
君待つと我が恋ひをれば我が宿の簾うごかし秋の風吹く(額田王『万葉集』)
軒は荒れてすだれうごかし吹く風に閨のおくまで月ぞいざよふ(後崇光院『沙玉集』)
月にまくうてなのうへの玉すだれ風のひびきも清らかにして(加納諸平『柿園詠草』)
【作者】張華(232~300)は范陽方城(河北省固安県)の人。晋の武帝に仕えて中書令となり、恵帝の世には太子少傅となり、賈皇后の信任を得て政界に重きを置いたが、八王の乱で趙王倫に殺された。詩文の才に恵まれ、ことに詩「鷦鷯賦」や著書『博物誌』などが名高い。

最近のコメント