白氏文集卷五十四 河亭晴望 ― 2010年10月15日
風轉雲頭斂 風転じて
煙銷水面開 煙
晴虹橋影出
秋鴈櫓聲來
郡靜官初罷
鄉遙信未迴
明朝是重九
誰勸菊花盃
【通釈】風向きが転じて、雲は頭を引っ込め、
煙霧が消えて、川面がひらけた。
雨あがりの虹が、橋の影のようにあらわれ、
雁の群が、櫓を漕ぐような声をあげてやって来る。
郡中は静かに治まり、私は官職を罷めたばかりだが、
故郷は遥か遠く、書信の返事はまだ届かない。
明日は九月九日重陽の節句。
菊花を浮べた盃を誰が勧めてくれるだろう。
【語釈】◇晴虹 雨あがりの虹。◇重九 陰暦九月九日、重陽の節。長寿を祈り、菊の花を浮かべた酒を飲む風習がある。
【補記】宝暦二年(828)、作者五十五歳。前年蘇州の刺史に任官したが、この年病により罷免され、間もなく帰郷した。
雁を舟に喩えた菅根の歌は当詩の第四句「秋鴈櫓聲來」の影響を受けたと見られる。他にも同句を踏まえたと思われる和歌が散見される。実隆の歌の題は「雁似櫓声」である。
【影響を受けた和歌の例】
秋風に声をほにあげて来る舟は
潮路ゆく友とや思ふ海人小舟はつ雁がねのこゑぞ聞ゆる(寂身『寂身法師集』)
久かたの天の河舟からろをやおし明がたの初雁の声(正徹『草根集』)
氷ゐる入江の磯のすて舟におのれ梶とる雁のこゑかな(正徹『草根集』)
くる雁や水のおもかぢとりかぢに声もすがたも沖の友舟(三条西実隆『雪玉集』)
わたの原そらゆく雁はおともなし浦こぐ舟に声をゆづりて(井上文雄『調鶴集』)
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