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白氏文集卷三 五絃彈(抄)2010年10月29日

五絃弾(抄)   白居易

五絃彈      五絃弾(ごげんだん)
五絃彈      五絃弾(ごげんだん)
聽者傾耳心寥寥  聴く者耳を傾けて心寥寥(れうれう)たり
趙璧知君入骨愛  趙璧(てうへき)は君が骨に入りて愛するを知り
五絃一一爲君調  五絃 一一(いちいち) 君が為に調(ととの)
第一第二絃索索  第一第二の絃は索索(さくさく)たり
秋風拂松疏韻落  秋の風松を払つて疏韻(そいん)落つ
第三第四絃泠泠  第三第四の絃は泠泠(れいれい)たり
夜鶴憶子籠中鳴  夜の鶴子を(おも)うて()(うち)に鳴く
第五絃聲最掩抑  第五の絃の声は最も掩抑(えんよく)せり
隴水凍咽流不得  隴水(ろうすい)(こほ)(むせ)んで流るること得ず

【通釈】五絃琵琶の弾奏よ、
それに聴衆が耳を傾ければ心は荒涼とする。
趙璧は諸君が骨身に沁みて彼の演奏を愛することを知り、
五絃の一つ一つに調子を整える。
第一・第二の絃は不安な調べである。
秋の風が松を払ってまばらな響きを立てるかのよう。
第三・第四の絃は凄まじい調べである。
夜の鶴が子を慕って籠の中で鳴くかのよう。
第五の絃の声は最も鬱々としている。
隴山の谷川が凍って咽び、滞るかのよう。

【語釈】◇趙璧 五絃琵琶の名手。◇泠泠 冷冷。冷え冷えとしたさま。◇掩抑 心を覆い抑えつけるさま。◇隴水 隴山(甘粛省にある山)の山水。

【補記】「惡鄭之奪雅也(鄭の雅を奪ふを(にく)むなり)」と自注するように、五絃のような俗な楽器が雅楽に取って代わる風潮を悪んだ詩。白氏は心を掻き乱すような五絃琵琶の弾奏を非難する一方、上古の清廟(祖先祭の時に演奏した歌)は人を元気にし心を平和にするとして賞賛している。和漢朗詠集巻下「管絃」に「第一第二絃索索」から「隴水凍咽流不得」までの六句が引かれている。高内侍(高階貴子)が「夜鶴憶子籠中鳴」の句を踏まえ「夜の鶴」に子を恋うる心を託して以後、しばしば和歌に「夜の鶴」が用いられるようになった。以下にはその一部のみ引く。

【影響を受けた和歌の例】
夜の鶴みやこのうちに放たれて子を恋ひつつも啼き明かすかな(高内侍『詞花集』)
子を思ふことは変はらじ夜の鶴いかで雲居に声きこゆらん(藤原俊成『長秋詠藻』)
夜の鶴の都のうちを出でであれなこの思ひには惑はざらまし(西行『西行法師家集』)
和歌の浦の蘆辺に浪のよるの鶴更け行く月に子をおもふなり(藤原有家『最勝四天王院和歌』)
夜の鶴なくねふりにし秋の霜ひとりぞほさぬ和歌の浦人(藤原定家『拾遺愚草』)
夜の鶴の心のいかにとまりけん衣の色にたれもなくねを(同上)
笛の音をふきつたへても夜の鶴子を思ふ声を哀とも聞け(源家長『洞院摂政家百首』)
君ゆゑも悲しきことのねはたてつ子を思ふ鶴にかよふのみかは(藤原良経『秋篠月清集』)
こにこもるわが身もしらず夜の鶴こころの闇のねこそなかるれ(藤原為家『新撰和歌六帖』)
子をおもひ道をもおもふよるの鶴玉津島まで声もきかなん(藤原為家『為家集』)
いかにせん和歌の浦ぢの夜の靏こはよにしらず悲しかりけり(『安嘉門院四条五百首』)
和歌の浦にひとり老いぬる夜の鶴のこのため思ふねこそなかるれ(二条為氏『新後撰集』)
和歌の浦に道ふみまよふ夜の鶴このなさけにぞねはなかれける(京極為教『玉葉集』)
子を思ふ涙くらべは夜の鶴われおとらめやねにたてずとも(藤原公教『新千載集』)
思はじよ心の闇の夜の鶴こはおろかなる道につけても(飛鳥井雅世『雅世集』)
子を思ふ道にはあらで夜の鶴のたつてふ葦のねをのみぞなく(正徹『草根集』)
夜の鶴八十島かけてすむ月の秋をかなしむ遠かたの松(肖柏『春夢草』)
子を思ひおきつの浜の夜の鶴やみは雲井の月もはれずや(三条西公条『称名院集』)
夜の鶴の闇になくねをいかばかり苔の下にも悲しとや聞く(木下長嘯子『挙白集』)
ひとりねの枕さびしき夜の鶴子を思ふ声に夢もさそひて(冷泉為村『為村集』)
降る雪に羽ぐくみかぬる夜の鶴悲しき声も天に聞えむ(上田秋成『藤簍冊子』)

【原詩全文】
五絃彈 五絃彈 聽者傾耳心寥寥 趙璧知君入骨愛 五絃一一爲君調 第一第二絃索索 秋風拂松疏韻落 第三第四絃泠泠 夜鶴憶子籠中鳴 第五絃聲最掩抑 隴水凍咽流不得 五絃並奏君試聽 淒淒切切複錚錚 鐵擊珊瑚一兩曲 冰瀉玉盤千萬聲 殺聲入耳膚血寒 慘氣中人肌骨酸 曲終聲盡欲半日 四坐相對愁無言 座中有一遠方士 唧唧咨咨聲不已 自歎今朝初得聞 始知孤負平生耳 唯憂趙璧白髮生 老死人間無此聲 遠方士 爾聽五絃信為美 吾聞正始之音不如是 正始之音其若何 朱絃疏越清廟歌 一彈一唱再三歎 曲淡節稀聲不多 融融曳曳召元氣 聽之不覺心平和 人情重今多賤古 古琴有絃人不撫 更從趙璧藝成來 二十五絃不如五