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白氏文集卷六 冬夜2010年12月19日

冬夜(とうや)     白居易

家貧親愛散  家貧しければ親愛(しんあい)散じ
身病交遊罷  身病めば交遊()
眼前無一人  眼前に一人(いちにん)無し
獨掩村齋臥  独り村斎(そんさい)(おほ)ひて()
冷落燈火闇  冷落して燈火(くら)
離披簾幕破  離披(りひ)して簾幕(れんばく)(やぶ)
策策窗戸前  策策(さくさく)たり窓戸(さうこ)の前
又聞新雪下  又新雪の()るを聞く
長年漸省睡  長年(ちやうねん)(やうや)(ねむ)りを(はぶ)
夜半起端坐  夜半(やはん)起きて端坐(たんざ)
不學坐忘心  坐忘(ざばう)の心を学ばずは
寂莫安可過  寂莫(せきばく)(いづ)くんぞ過ごす()けん
兀然身寄世  兀然(ごつぜん)として身 世に寄せ
浩然心委化  浩然(かうぜん)として心 (くわ)(ゆだ)
如此來四年  ()くの如くして(このかた)四年
一千三百夜  一千(いつせん)三百(さんびやく)()

【通釈】家が貧しくなると、親しい肉親も離散し、
身体が病むと、友人たちとの交遊も止む。
こうして目の前には誰一人いなくなり、
独り村の家に引き籠って臥している。
落ちぶれて部屋の灯し火は暗く、
簾の垂れ布はばらばらに破れている。
窓の扉の前で、さくさくと
さらに新雪の降る音を聞く。
年を取ってから次第に睡眠が短くなり、
夜半起き上がっては茫然と坐している。
行禅の心を学ばなければ、
この寂しさをどうしてやり過ごそう。
ひっそりとこの世に身を置き、
ゆったりと自然のはたらきに心を委ねる。
このようにして四年、
千三百の夜を過してきた。

【語釈】◇村齋 村荘の一室。「齋」は引き籠る室。◇冷落 零落に同じ。落ちぶれたさま。◇離披 ばらばらになる。◇策策 雪の降る音の擬音語。◇坐忘 白氏文集巻七「睡起晏坐」に「行禅」に同じものとする。坐して無我の境地に入ること。◇兀然 孤独なさま。心寂しいさま。

【補記】五言古詩による閑適詩。元和九年(814)四十三歳、母の死後故郷渭村に退去していた時の作であろう。以下の和歌はすべて「策策窓戸前 又聞新雪下」の句題和歌。

【影響を受けた和歌の例】
槙の戸をおし明がたの空さえて庭白妙に雪降りにけり(慈円『拾玉集』)
初雪の窓のくれ竹ふしながら(おも)末葉(うれば)の程ぞきこゆる(藤原定家『拾遺愚草員外』)
風さやぐ松の(とぼそ)の明け方に今年まだ見ぬ雪を見るかな(寂身『寂身法師集』)

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