道端の草花:草木の記録20110227 ― 2011年02月27日
和歌の律読法 ― 2011年02月27日
百人一首から二首選んで、和歌の律読法を見てみましょう。
君がため 春の野にいでて 若菜つむ わが衣手に 雪はふりつつ
立ちわかれ いなばの山の 峰におふる まつとし聞かば 今かへりこむ
五音句も七音句も、基本単位は二音であり、二音拍で読んでゆくのが原則です。詩歌を七五調で読むとき、実際のところ私たちは「二音拍」などは意識せずに読んでいるのですが、二音拍が七五調の基礎にあることは、国語学者たちが明らかにしているとおりです。
さて五音句は、二音拍で読み下したあと、三音分の休符が続きます(休符は、音を引き伸ばして誦んでもかまいません)。
きみ|がた|め・|・・|
わか|なつ|む・|・・|
たち|わか|れ・|・・|
「君がため」「若菜つむ」は語意としては「きみが|ため」「わかな|つむ」と分かれますが、二音拍で読むと、上のようになります。「きみ|がた」「わか|なつ」と読んでゆくとリズムは崩れそうになりますが、次に来るのが唯一音であるため、二音拍で違和感なく読みおおせるのです。
五音句に字余りがある場合も、二音拍で同様に読み下します。
みね|にぉふ|る・|・・|
母音「お」を前の字「に」にくっつけて、「にぉ」と誦みます。一音分の長さで誦むので、「にょ」あるいは「の」の音に近くなります。
このように、和歌の五音句は常にひとつながりの音として読まれます。二三調とか、三二調とかはあり得ません。
では七音句はどうでしょう。
たとえば、「雪はふりつつ」を五音句のように、二音拍で一貫して読もうとすると、どうなるでしょう。
ゆき|はふ|りつ|つ・|
リズムが語と乖離してガタガタに崩れます。ゆえに、この句は次のように読まれます。
ゆき|は・|ふり|つつ
三音のあと短い休止を置くのです(「はー」と伸ばしても構いません)。これを三四調と言います。
七音句では、三四調のほか、五二調にも休符が入ります。
五二調では、休符は三拍目に入ります。
いま|かへ|り・|こむ
「いまかへりこむ」は、「いま|かへりこむ」と分けられるので、一見二五調のようですが、結句では二五調を避けるので、五二調になるのです。
三四調・五二調は、いずれも最後の拍が二音で満たされ、完結感を持ち得るので、結句に用いられました。
七音句で途中に休符が入らないのが、四三調・二五調の場合です。いずれも、二音拍でスムーズに流れます。
四三調 いな|ばの|やま|の・|
二五調 わが|ころ|もで|に・|
三四調・五二調と異なり、間に休符が入らず、ひとつながりのスムーズな音として詠まれるのです。いずれも最後に一音分の休符があるので、完結せず、次につながる調子になります。それゆえ結句には四三調・二五調は用いないのが原則でした。
対して三四調・五二調は、途中の句にも、結句にも用いられます。
以上をまとめると、それぞれの歌の律読法は次のようになります(各句の右に、ひとまとまりを成す音数を掲げます)。
きみがため・・・ 5
はるの・のにぃでて 3・4
わかなつむ・・・ 5
わがころもでに・ 7(2・5)
ゆきは・ふりつつ 3・4
第二句「はるのーのにいでて」の三四調がのびやかな声調を生んでいます。これを都々逸調の二音拍で貫き「・は|るの|のにぃ|でて」などと読むと、せっかちな調べになり、台無しです。第三・四句はすべらかに流れ、結句で再び三四調になるのが効果的です。
たちわかれ・・・ 5
いなばのやまの・ 7(4・3)
みねにぉふる・・・ 5
まつとしきかば・ 7(4・3)
いまかへり・こむ 5・2
結句の途中まで非常にスムーズに流れます。それだけに、一呼吸置いた後の「来む」には万感が籠るのです。
このように、一口に七五調、五七五七七の音数律と言っても、さまざまなヴァリエーションがあるのです。
参考文献:川本皓嗣『日本詩歌の伝統』、坂野信彦『七五調の謎をとく』
(2011年11月22日加筆訂正)
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