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佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』―はじめに―2015年02月12日

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』(博文館刊)

私は旅が趣味だったと言っても良いくらいの旅好きで、海外旅行の経験は乏しいものの、日本は釧路から西表島まで、全国各地をかなり歩き廻っている方だと思います。しかし、今は事情あって身体が自由になりません。そこで旅の本を読んだりして心を慰めることが多いのです。中でも好きなのは、昔の歌人の紀行文、そして名所和歌などを集めたアンソロジーです。最近、佐佐木信綱が大正八年に出した『和歌名所めぐり』という面白い本(博文館刊)を入手し、愛読しています。この書のユニークなところは、鉄道の路線別に和歌の名所を部類しているところでしょう。目次は次のようになります。

一 東海道線
二 京都附近
三 伊勢方面
四 大和紀伊方面
五 大阪神戸附近
六 山陽線
七 山陰線
八 四国
九 九州
十 中央線
十一 信越線
十二 北陸線
十三 総武線
十四 常盤線
十五 東北線
十六 磐越線、奥羽線
十七 北海道及樺太
十八 台湾
十九 朝鮮及満洲
二十 支那及印度
二十一 欧米及其他

名所は東京の皇居からアフリカの喜望峰にまで渡ります。万葉歌人から当時の同時代の歌人まで、各時代の名所詠を読み味わいながら、旅した懐かしい風景を思い出したり、未知の土地に想像を巡らしたりします。

同時代の歌人は佐佐木信綱の主宰した歌誌「心の花」の同人に偏りますが、時に白蓮や片山廣子といった名が出てきてはっとさせられるのも、この本の楽しみの一つです。

佐佐木信綱の選から漏れた名歌・秀詠を補いつつ、これまで撮り貯めた写真や、フリー素材の写真と併せ、ブログで「和歌名所めぐり」を連載してみようと思います。

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』東海道線1 東京2015年02月12日

東京駅

一 東海道線

東京

皇城

東久世通禧

万代のかげこそこもれ宝田の千代田の宮の松のむら立

正岡子規

桜咲く御国しらすと百敷の千代田の宮に神ながらいます

八木善文

まかがやく黄金こがね御輦みくるま春風にかがやき出でぬ玉敷ける橋

東京駅

岡田三鈴

東京、東京、幾年われの思へりし都にまづぞ我は着きにける

日比谷公園

北原白秋

喨々と一すぢの水吹きいでたり冬の日比谷の鶴の嘴

銀座

土岐哀果

ある朝の銀座の街の時計台ものめづらしく仰ぎつつ行けり

上草履午後の休みに出でて踏む銀座通りの春の土かな

上野公園

正岡子規

雨にして上野の山を我が越せば幌のすきまよ花の散るみゆ

若山牧水

動物園のけものの匂ひする中を歩むわが背の秋の日かげよ

香取秀真

上野山下枝しづえを垂れてさく花のおくにどよめく桜人のとも

浅草公園

平野忠俊

織るが如き人かげ絶えて浅草の御寺しづかに月さし出でぬ

赤倉富子

打水がかげに光る仲見世の敷石ふめばさわやぐ心

隅田川

加藤千蔭

墨田川みのきてくだす筏士にかすむあしたの雨をこそしれ

安藤野雁

隅田川花のよどみにうく鳥の桜はねぎる春のゆふぐれ

加藤千浪

すみだ川長き堤も春の日もみじかくなすは桜なりけり

石榑千亦

よしきりや列をはなれて小さき帆の綾瀬に折れし昼下りかな

両国橋

平沼呉岳

光の華み空にみだれ大伝馬、小伝馬、艀、川をうづめぬ

東京こゝかしこ

土岐哀果

大門の車庫の広場に品川の鷗の遊ぶ冬のあけぼの

河杉初子

よし町へ銀のたけなが買ひにゆく夜を美しう春の雨ふる

松本徳子

粉雪ふるいかだの上を白鷺がひよい〳〵歩む上木場の堀

大村八代子

霜白し愛宕の塔にぽつかりと朝日はさして夜あけぬるかな

赤倉富子

つぎつぎに草の名を問ふ幼子と植物園をたどる春の日

池上本門寺

大森駅の附近、日蓮上人示寂の処。

片山広子

池上や千部経よむ春卯月霞む野路ゆく人のむれかな

祖師ねぶる池上山のよひ月夜杉の上行く山ほとゝぎす

補録

東京

斎藤茂吉

東北の町よりわれは帰り来てあゝ東京の秋の夜の月

隅田川

我がおもふ人に見せばやもろともにすみだ川原の夕暮の空(藤原俊成)

隅田川堤にたちて舟待てば水上とほく鳴くほととぎす(加藤千蔭)

つくばねの高嶺のみゆき霞みつつ隅田河原に春たちにけり(村田春海)

隅田川なか洲をこゆる潮先にかすみ流れて春雨の降る(井上文雄)

追ひつぎて花もながれむ角田川つつみの桜かげ青みゆく(大国隆正)

永代橋

永き代の橋を行きかふ諸人はおのづからにや姿ゆたけき(田安宗武)

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