佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』東海道線14 各務が原~伊吹山 ― 2015年02月25日
各務が原
陸軍の飛行場あり。
各務野の果の夕空飛行機の一機は高く一機は低き
高飛ぶや天の鳥船音たててかがみが原は夕霞しぬ
金華山
岐阜市の北、長良川に臨む。山頂に稲葉城址あり。
たらちねの名をばくたさじ梓弓いなばの山のつゆと消ゆとも
灰色のもやは尾張ゆせまりきて風襲ふらし山の城鳴る
長良川
金華山の麓を流るゝ川、鵜飼にて名高し。
鵜かひ舟かへりはてにし波の上にふけたる星のかげの涼しさ
夕ばえの早瀬をのぼる鮎若し今いくかありて鵜船さすらむ
鮎のぼる夏となりぬれ柳の葉黒みを帯びてけうとかりけれ
さちおほくかへる鵜舟のふなべりに立並ぶ鵜のほこり顔なる
鵜飼見の人悉く帰りはてて月に涼しき長良大橋
長良川下る夜舟の櫓のひゞきほのかなるかもこの朝霧に
舟底の鳴る音すごしさかしまに棹つきさして早瀬を下る
恐ろしく心地よきかも早瀬下る舟底にふる石の響の
益田七里
飛騨川の上流、益田川の沿岸七里の景勝。岐阜より飛騨高山に入る街道。
石に散る滝つ七瀬の泣男山鳩といへり樹にやどり居り
養老の滝
大垣の南方、多度山中にあり。
古ゆ人の云ひ来る老人の復つといふ水ぞ名におふ滝の瀬
大君のみゆきましけるたどの滝老も若ゆといふ水ぞこれ
多度山のいはがき紅葉秋ふけてむらごに落るたきの白いと
老人をやしなふ泉くみて思ふわがたらちねのありし昔を
大君の大御車をとめましし多藝のみ山の桜花散る
多度の山夕日も花もとゞまらずゆく春いそぐ滝のひびきに
見おろせば美濃の広野に虹たちぬ滝つせの辺り狭霧籠りて
不破の関址
関が原駅より五丁余、古への不破の関の旧蹟なり。
美濃の国せきの藤川たえずして君につかへむ万代までに
人すまぬ不破の関屋の板びさし荒れにし後はただ秋の風
あれはてし不破の関路の夕暮に木葉さそひて行く時雨かな
伊吹山
柏原駅の近傍。近江美濃の国境をなせり。
湖のはてに伊吹は白く光りたり地震にくづれし片面かも
うちわたす菜畑やうやく黄ばみけり伊吹嶺はなほ雪白くして
雪曳ける遠つ伊吹の秋姿花野の末に柔らぎて見ゆ
どとおろす伊吹颪に野べの雪煙り上りて淋しきものを
星空に大きなぞへのきはやかに夜の伊吹のたたずまひかな
伊吹嶺のふもとの小田の氷れるに冬の夜の月さむざむと照る
補録
長良川
君が代は長良の川の水すみて底なる石も玉とこそ見れ
くむ人のよはひもさこそ長月やながらの川の菊のした水
うかひ舟今はほかにはながら河むかしを見する篝火の影
悲しくも鵜舟さすなり長柄川ながらへはてぬこの世と思ふに
かゞり火の光にみれば長良川うの羽の色もさやけかりけり
養老の滝
多度川の滝を清みか古ゆ宮仕へけむ多藝の野の辺に
養老瀑布見に物して岩根に腰かけなどしつつあたり見めぐらすに、なべて人げんの世かいはなれたるやうにおぼえらる
こくたちし人かあらぬか岩ばしる滝よりおくに薪こるおと
不破の関址
不破の関朝こえゆけば霞たつ野上のかたに鶯ぞなく
おもひこし不破の関屋の旅寝かなぬるともよしや夕暮の雨
伊吹山
秋をへて色にぞみゆる伊吹山もえて久しき下の思ひも
伊吹山いぶく朝風吹きたえてあふみは霧の海となりぬる
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