佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』京都附近7 洛西(嵯峨) ― 2015年03月07日
嵯峨
京都市西郊一帯の地。
野の宮の樫の下道けふ来れば古葉とともにちる桜かな
木の芽煮てこの頃都売りありく翁を見けり嵯峨の花かげ
竹筏青きがうへに桜散り油のごとき嵯峨のはるさめ
罌粟の実のまろく青きが並び居り清涼寺よりわが出で来れば
真萩ちるあしたの雨にそぼぬれて友とまうづる妓王妓女の墓
嵯峨の奥大竹やぶの春の雨青み烟れり目路の限りは
還幸の御車ゆるうきしろひて花の雨ふる北嵯峨のみち
花降る日小督の墓にぬかづけばはらからの如親しみ覚ゆ
北嵯峨や尼によき子と乞はれてし昔なつかしはるの夕ぐれ
補録
嵯峨
名にめでて折れるばかりぞ女郎花われおちにきと人に語るな
嵯峨大覚寺にまかりて、これかれ歌よみ侍りけるによみ侍る
滝の音は絶えて久しくなりぬれど名こそ流れてなほ聞こえけれ
小萩さく秋まであらば思ひいでむ嵯峨野をやきし春はその日と
嵯峨にすみけるに、たはぶれ歌とて人々よみけるを
うなゐ子がすさみにならす麦笛のこゑにおどろく夏の昼臥し
春日野は子の日の若菜の春のあと都の嵯峨は秋萩の時
公時卿母みまかりて歎き侍りけるころ、大納言実国がもとに申しつかはしける
悲しさは秋のさが野のきりぎりすなほ古郷にねをや鳴くらん
花をみし秋の嵯峨野の露の色も枯葉の霜にかはる月影
名にめでし嵯峨野の秋のをみなへしこれも菩提のたねとしらずや
野宮
野宮に斎宮の庚申し侍りけるに、松風入夜琴といふ題をよみ侍りける
琴の音に峰の松風かよふらしいづれのをより調べそめけむ
わすれめや神のいがきの榊葉にゆふかけそへし雪の曙
夏草の花にぞのこる野宮やふりはへ問ひし神のうつり香
広沢の池
すむ人もなき山里の秋の夜は月の光もさびしかりけり
すだきけむ昔の人は影たえて宿もるものは有明の月
いにしへの人は汀に影たえて月のみすめる広沢の池
散る花にみぎはのほかの影そひて春しも月は広沢の池
化野
暮るるまも待つべき世かはあだし野の末葉の露に嵐立つなり
人の世は思へばなべてあだし野のよもぎがもとのひとつ白露
あだし野や風まつ露をよそにみて消えんものとも身をば思はず
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