佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』京都附近8 洛西(嵐山・大井川) ― 2015年03月08日
嵐山
京都の西、大井川に臨む。
朝まだき嵐の山の寒ければ紅葉の錦きぬ人ぞなき
あらし山花の光も暮れゆけば戸無瀬の奥に蛙なくなり
嵐山まつの葉わけてとびまがふほたるぞ夏の花には有ける
あらし山名所の橋の初雪に七人わたる舞ごろもかな
京少女団扇ぬらして群れあそぶ音羽の滝のゆふづく夜かな
大井川
嵐山の麓を流る。
大井川わか葉涼しき山かげのみどりをわくる水のしらなみ
大井川月と花とのおぼろ夜にひとりかすまぬなみの音かな
大井川かへらぬ水にかげ見えてことしもさける山ざくら哉
ほたるとび蛙もなきて大井川またなつの夜もおもしろき哉
大井川ゐぜきの浪は高けれど鳴く音まぎれぬほとゝぎすかな
桂川絵に見るやうの瀬の蘆やいしぶし見むと月に下りけり
補録
嵐山
大井川ふるき流れをたづねきて嵐の山のもみぢをぞ見る
けふ見れば嵐の山は大井川もみぢ吹きおろす名にこそありけれ
吹きはらふ紅葉のうへの霧はれて峯たしかなる嵐山かな
むかし見し嵐の山にさそはれて木の葉のさきに散る涙かな
朝ぼらけ嵐の山は峯晴れて麓をくだる秋の川霧
ながめのこす花の梢もあらし山風よりさきに尋ねつるかな
大井川・桂川
(大井川の下流を桂川といふ。)
大井川かはべの松に言問はむかかる行幸やありし昔を
夕さればいとどわびしき大井川かがり火なれや消えかへりもゆ
高瀬舟しぶくばかりにもみぢ葉の流れてくだる大井川かな
水もなく見えこそわたれ大井川きしの紅葉は雨とふれども
大井川いは波たかし筏士よ岸の紅葉にあからめなせそ
もみぢ葉は井関にとめよ大井川空に暮れゆく秋をこそあらめ
ひさかたの中なる河の鵜飼舟いかに契りて闇を待つらん
大井河秋のなごりをたづぬれば入江の水に沈むもみぢ葉
大井川かへらぬ水のうかひ舟つかふと思ひし御代ぞ恋しき
大井川はるかにみゆる橋のうへに行く人すごし雨の夕暮
柵を越えては白く落つる水遠き水音の聞かば聞きつべし
小倉山
夕づく夜をぐらの山に鳴く鹿の声のうちにや秋は暮るらむ
鳴く雁のねをのみぞ聞く小倉山霧たちはるる時しなければ
小倉山峰のもみぢ葉こころあらば今ひとたびのみゆき待たなむ
あやしくも鹿のたちどの見えぬかなをぐらの山に我や来ぬらむ
小倉山しぐるるころの朝な朝な昨日はうすき四方のもみぢ葉
をぐら山木の葉しぐれてゆく秋の嵐のうへにのこる月かげ
わが庵はをぐらの山のちかければうき世をしかとなかぬ日ぞなき
をぐら山秋とばかりの薄紅葉しぐれてのちの色ぞゆかしき
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