佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』京都附近12 宇治 ― 2015年03月11日
宇治
平等院鳳凰堂の古刹あり。宇治川に臨めり。平等院は源頼政陣没の処。
秋の野のみ草刈り葺き宿れりし宇治の都の仮庵し思ほゆ
物のふのやそ宇治川の網代木にいさよふ波の行方知らずも
朝ぼらけ宇治の川霧絶え絶えにあらはれわたる瀬々の網代木
宇治川の川瀬も見えぬ夕霧に槙の島人舟よばふなり
埋木の花さくこともなかりしにみのなる果ぞあはれなりける
暮れてゆく春の港は知らねども霞に落つる宇治の柴舟
あじろ木におりゐる鷺のみの毛のみ一村しろき宇治の川霧
水上や雨のなごりの山見えて夕日にうかぶ宇治のかはぶね
やどりする宇治の橋本さよ更けて中の河洲になくは千鳥か
武夫の八十うぢ川の早き瀬はますらたけをの心とぞみる
このめつむをとめが唄に時鳥こゑかはすなり宇治のやま里
橋寺や法師はあらず然れども茶の木の畑に梅ひともと咲く
冬木立鳳凰堂の屋の上に鴉こゑして寒き川みづ
はらはらとこぼるゝ桜遅桜扇の芝はかなしきところ
ひるの月空にうかべるいみじさよ平等院は夢と静けき
水色の渦の日傘に日をよけて川ぞひを行く二人の女
つゆばれを凌霄花ぬれて落つる平等院のひるしづかなり
宇治川の堤の桜今日のこの吾等が為めに花吹雪せよ
朝されば時鳥なき夕されば蛍とぶ宇治の夏はよろしも
わが願ひ春のあしたを宇治川の流にそひてここに終れと
春くるる平等院のおばしまに今美しく山桜ちる
補録
宇治
さむしろに衣かたしき今宵もや我を待つらむ宇治の橋姫
ちはやぶる宇治の橋守なれをしぞあはれとは思ふ年のへぬれば
わが庵は都のたつみしかぞ住む世をうぢ山と人は言ふなり
年へたる宇治の橋守こととはむ幾世になりぬ水のみなかみ
鵜飼舟あはれとぞ見るもののふの八十宇治川の夕闇の空
さむしろや待つ夜の秋の風ふけて月をかたしく宇治の橋姫
花の色の折られぬ水にこす棹のしづくもにほふ宇治の河をさ
何となき世のいとなみも哀れなり水のうへゆく宇治の柴舟
音はしていざよふ浪も霞みけり八十うぢ川の春のあけぼの
霧はるる遠の山もとあらはれて月影ながす宇治の川波
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