佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』伊勢方面2 湯の山温泉~鈴鹿 ― 2015年03月14日
(写真は湯の山温泉)
湯の山温泉
また菰野温泉といふ、四日市より四里、軽便鉄道あり。
峡ゆ見る伊勢の海原きはやかにはれ居り山は吹雪する中に
千人をものすてふ岩に一人ゐて玉と砕くる渓の水見る
能褒野
加佐登亀山の中間。日本武尊東征の帰途此地にて薨去せらる。
白鳥のかげこそみえね御つるぎのさやかに跡は残りけるかな
東夷うちなびけんと太刀はきて野こえ山こえ征きましゝ皇子
山辺御井
鈴鹿河畔、加佐登附近にあり。
山辺の御井を見がてり神風の伊勢少女どもあひ見つるかも
雲雀うたふ麦畑こえて山の辺の御井の跡とふ初夏の頃
鈴鹿
大和より伊勢に通ふ通路は鈴鹿川に添へり。峠を鈴鹿峠といふ。
鈴鹿川八十瀬渡りて誰ゆゑか夜越にこえむ妹もあらなくに
下紅葉いろいろになる鈴鹿山時雨のいたくふればなるべし
五月雨の日をふるまゝに鈴鹿川八十瀬の浪ぞ音増りける
鈴鹿川憂世をよそにふり捨てていかに成行くわが身なるらむ
鈴鹿山雲も関路にかゝりけりしぐれぬ先にいかでこえまし
以下亀山より分岐する参宮鉄道によりて南す。
補録
湯の山温泉
春老いては鏡にもらす歌ぞ多き二十なりける湯の山の宿
能褒野
能煩野に到りませる時に、国思はして歌ひたまはく
倭は 国のまほろば たたなづく 青垣 山隠れる 倭しうるはし
鈴鹿
世にふればまたも越えけり鈴鹿山むかしの今になるにやあるらむ
えぞ過ぎぬこれや鈴鹿の関ならむふりすてがたき花の陰かな
鈴鹿川波と花との道すがら八十瀬をわけし春は忘れず
鈴鹿川ふかき木の葉に日数へて山田の原の時雨をぞきく
鈴鹿川八十瀬の波はわけもせでわたらぬ袖のぬるる頃かな
雨にとくなりぬるものを鈴鹿山霧の降るのと思ひけるかな
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