佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』大和紀伊方面11 長谷観音・多武峰 ― 2015年04月10日
写真は長谷寺五重塔。Photo by (c)Tomo.Yun ゆんフリー写真素材集より。
長谷観音
初瀬町にあり、その寺の長廊の左右は名高き牡丹園なり。
斯くしつゝこの世や過ぎむ初瀬山昨日もきゝし入相の鐘
初瀬のや里のうなゐに道とへば霞める梅の立枝をぞさす
まき向の檜原さやぎてふくかぜに初瀬少女のそでかへる見ゆ
思ひいでば後も心ぞすみぬべき初瀬の寺のあきの夜の月
牡丹の香にむせびつつ丈六の観世音菩薩もだしいませり
初瀬女がうるや牡丹のつくり花うらぐはしもよ家づとにせむ
おりくるは円位の君か廻廊の燈籠の灯の静けき夕べ
多武峯
桜井駅の南一里、頂に談山神社ありて藤原鎌足を祀る。
たづね来てこゝも桜の峯つゞき吉野初瀬の花の中宿
補録
長谷観音・初瀬
泊瀬川夕渡り来て我妹子が家の金門に近づきにけり
こもりくの泊瀬の山の山の際にいさよふ雲は妹にかもあらむ
泊瀬女が造る木綿花み吉野の滝の水沫に咲きにけらずや
初瀬川布留川の辺に二もとある杉 年を経てまたも相見ん二もとある杉
初瀬山雲ゐに花のさきぬれば天の川波たつかとぞみる
憂かりける人を初瀬の山おろしよはげしかれとは祈らぬものを
年もへぬ祈る契りははつせ山をのへの鐘のよその夕暮
を泊瀬や宿やはわかむ吹きにほふ風の上ゆく花の白雲
初瀬女の峰の桜の花かづら空さへかけてにほふ春風
こもりえの初瀬の檜原吹きわけて嵐にもるる入相の鐘
をはつ瀬の鐘のひびきぞ聞こゆなる伏見の夢のさむる枕に
を初瀬や桜にまじる檜原まで花咲きつづく雪の朝明け
冬くれば霜の鐘きく初瀬山もろき木の葉にひびくとはなし
初瀬山をのへのあらし音さえて霜夜にかへる暁の鐘
白雲に松も檜原も籠り江に初瀬の山ぞ花に明けゆく
多武峯
あくる夜の雲もたゆたふ多武の峰四方の梢の霞みあひつつ
神宝 とぼしくいますことの
たふとさ。
古き社の
しづまれる山
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