佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』山陰線23 鴨山 ― 2016年11月01日
斎藤茂吉鴨山記念館前の歌碑「夢のごとき…」(島根県美郷町湯抱)
補録
鴨山
万葉集の歌によれば柿本人麻呂終焉の地。斎藤茂吉の提唱した、島根県邑智郡美郷町湯抱の鴨山説が名高いが、浜田市の城山(旧名鴨山)、益田市高津の鴨島(水没)とする説のほか、奈良県葛城山中の山とする説などもある。
柿本朝臣人麻呂の石見国に在りて死に臨める時、自ら傷みて作れる歌一首(万葉集)
鴨山の岩根しまける我をかも知らにと妹は待ちつつあるらむ
夢のごとき「鴨山」恋ひてわれは来ぬ誰も見しらぬその「鴨山」を
人麿がつひのいのちををはりたる鴨山をしもここと定めむ
鴨山を二たび見つつ我心もゆるが如し人に言はなくに
つきつめておもへば歌は寂びしかり鴨山にふるつゆじものごと
石深く終の命の筆の跡彫りたる上を時雨ながらふ
(注:湯抱の鴨山公園にたつ、茂吉の「人麿がつひのいのちを…」を彫った歌碑を詠む。)
参考リンク:万葉の旅 鴨山 斎藤茂吉説(風に吹かれて)
佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』山陰線24 津和野 ― 2016年11月02日
佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』山陰線25 隠岐 ― 2016年11月05日
隠岐 国賀海岸
隠岐
出雲の正北海中にあり。
我こそは新島守よ隠岐の海のあらき浪風心して吹け
木枯の隠岐の杣山吹きしをり荒くしをれてもの思ふころ
補録
隠岐の国に流されける時に、舟にのりて出で立つとて、京なる人のもとにつかはしける
わたのはら八十島かけて漕ぎ出でぬと人にはつげよ海人の釣舟
わたつうみの浪の花をば染めかねて八十島とほく雲ぞ時雨る
承久三年七月以後、遠所へ読みて奉り侍りし時
寝覚してきかぬを聞きてかなしきは荒磯波の暁のこゑ
遠所にて御歌合侍りしに、山家
さびしさはまだ見ぬ島の山里を思ひやるにもすむ心ちして
わたの原八十島かけてしるべせよ遥かにかよふおきの釣舟
浦々によする白浪言問はむおきのことこそ聞かまほしけれ
心ざすかたを問はばや浪の上に浮きてただよふ海士のつり舟
思ひやる波路かなしき隠岐の海の昔もとほくかすむ月かげ
隠岐の海のあらき浪風しづかにて都の南宮つくりせり
ほの青く浮びたりけれ指ざして今日も悲しき大君の隠岐
島山の太き腹部を一刀に断落としたるごとき垂直
渡り来し隠岐西之島船着に黒き牛たつ影ともなひて
中興を成したまひたる御心に泪溢れぬ海輝けば
佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』山陰線25 白島 ― 2016年11月06日
佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』山陰線目次 ― 2016年11月07日
佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』四国1 鳴門海峡 ― 2016年11月08日
鳴門海峡
淡路島と四国の海峡。中に島ありて大鳴門、小鳴門に分る。(注:渦潮で名高い。鳴門観光港より観潮船が就航している。また海峡に架かる大鳴門橋に設けられた遊歩道「渦の道」からも渦潮を間近に眺めることができる。)
浪荒き阿波の鳴門は夏ながらこころの寒きところなりけり
うづ潮の鳴門の沖のむら千鳥おりたちかねて空になくなり
たぎちゆく阿波の鳴門の早潮に心地よく小舟乗せてけるかも
補録
大島の鳴門を過ぎて二夜を経し後、追ひて作れる歌
これやこの名に負ふ鳴門の渦潮に玉藻刈るとふ海人娘子ども
秋ふかく鳴門の海の早汐におちゆく月の淀む瀬もがな
わたつみの鳴門は竜のかどなれば潮も滝とおつるなりけり
見わたせば神も鳴門の夕立に雲たちめぐる淡路島山
夜さへに玉藻刈るべみ鳴門の海うづ潮白く月照りにけり
おほかたは暗き鳴門に帯ほどの月明りして潮ふくれゆく
海山にあまる光のあつまりて鳴門へおつる潮のはげしさ
斎藤茂吉全歌集シリーズを刊行中です ― 2016年11月08日
最初の方からと、最後の方からと、交互に出版しています。すなわち、第一歌集『赤光』の次に最後の第十七歌集『つきかげ』、その次は第二、第十六、そして第三、第十五…といった順番です。
最新刊は第四巻の『遠遊』です。
原則として、各歌集の初版を底本として本文を作成しています。岩波書店の斎藤茂吉全集は、茂吉死後に発見された新資料を増補したり、GHQの検閲により削除された歌を増補したりして、初版本からかなり大きな改変・改編が成されている歌集が多いのですが、このたびの「全歌集シリーズ」は、初版本を重視し、全集で増補された分は「補遺」として別に収録する、という方針でやっています。
著者自身によって大幅な改編がなされた『赤光』については、初版・改選版の両方を収録しています。
茂吉が自作について解説した『作歌四十年』より、各歌集の抄を附録とするなどしています。第一巻『赤光』には「赤光抄」、第二巻『あらたま』には「あらたま抄」、といった具合です。『作歌四十年』執筆後に出版された晩年の『白き山』では、収録歌についての述懐を含む文章「冬」「春」「夏」「秋」を附録としています。文庫本に付くのがならいの「解説」の代りといったところです。
続々刊行予定ですので、どうぞお楽しみに。
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