新刊のお知らせ 『やまと心』ほか ― 2017年07月03日
佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州35 玉島 ― 2017年07月16日
補録
玉島
肥前国松浦郡。今の佐賀県唐津市浜玉町の一部にあたる。神功皇后が新羅出兵の際、玉島の里で鮎釣の占いをしたとの伝説がある。唐津市南山には神功皇后を祀る玉島神社がある。なお、万葉集に詠まれた「松浦川」は今の玉島川に当る。
玉島のこの川上に家はあれど君を恥しみあらはさずありき
松浦なる玉島川に鮎釣ると立たせる子らが家道知らずも
春されば我家の里の川門には鮎子さ走る君待ちがてに
大宰帥であった大伴旅人とその部下たちが玉島に遊んだ時、土地の娘(実は神仙)との贈答として虚構の歌を連作した、その一部を抜萃。個々の歌の作者は不明であるが、序文を含む連作全体としては旅人主導の創作とみとめられる。
若あゆ釣る玉島河の柳かげ夕風たちぬしばし帰らじ
玉島やおちくる鮎の河柳下葉うち散り秋風ぞふく
梅が香やまづうつるらむ影きよき玉島河の花の鏡に
をとめごがこの河上の家づとに玉島桜をりてゆくなり
うす氷春にながるる玉島の家路はるかにかすむ河波
春風にころも吹かせて玉島やこの川上にひとり鮎釣る
佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州36 虹の松原 ― 2017年07月17日
唐津城より眺めた虹の松原
虹の松原
松浦湾に沿へる長汀二里、青松白沙の景勝。(注:江戸時代に防風林として整備され、「虹の松原」と称されるようになったのは明治時代以降。JR筑肥線虹ノ松原駅下車至近。)
佐用媛がひれふりしてふ山裾に清くうつくし虹の松原
補録
まな下に横たふ虹の松原やなぎさはるばると波しろく寄す
うすべにの貝がらひとつひきだしに悲しき海といつまでかある
佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州37 領巾振山(鏡山・松浦山) ― 2017年07月19日
領巾振山
虹の松原の背後に聳ゆ。鏡山といふ。(注:佐賀県唐津市の山。万葉集等には松浦山とも称す。任那へと出征する大伴狭手彦を、松浦佐用姫がこの山から領巾を振って見送ったという。平坦な山頂には鏡山神社・佐用姫神社などを祀る。唐津湾・虹ノ松原などの眺望が素晴らしい。JR筑肥線虹ノ松原駅の南一キロほど。)
万代に語り継げとしこの嶽に領巾ふりけらし松浦佐用媛
海原の沖行く船をかへれとか領巾ふれしけむ松浦佐用媛
補録
松浦県佐用姫の子が領巾振りし山の名のみや聞きつつ居らむ
三島王、後に松浦佐用媛の歌に追和する歌(万葉集)
音に聞き目にはいまだ見ず佐用姫が領巾振りきとふ君松浦山
わが攀ぢし領巾振山のいただきは雑草枯れて稲荷の祠
唐津の海領巾振山の空すみて立つ天の川今宵仰がむ
新刊と無料キャンペーンのお知らせ ― 2017年07月20日
佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州38 松浦 ― 2017年07月24日
唐津城より松浦潟(唐津湾)を望む
補録
松浦(松浦潟)
松浦は肥前国松浦地方の古称。現在の佐賀県・長崎県の北部。「魏志」に見える末盧(末羅)国にあたるという。古代、松浦県、のち松浦郡が置かれた。松浦潟は唐津湾とその周辺の海。松浦の海、松浦の浦などとも称す。和歌では大陸との間を往き来する船の発着地として詠まれることが多く、松浦舟・もろこし舟がしばしば詠まれている。
君を待つ松浦の浦の娘子らは常世の国の海人娘子かも
霞しく松浦の沖に漕ぎいでて唐土までの春を見るかな
たらちめやまだ唐土にまつら舟ことしも暮れぬ心づくしに
松浦潟もろこしかけて見わたせばさかひは八重の霞なりけり
まつら潟山なき西に行く月をはるかにひたす沖つ白なみ
松浦がたかよふ鯨のあと見れば天路にけぶる八重の汐風
折しもあれもろこし舟につらなりて松浦の沖を帰る雁がね
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