佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』大和紀伊方面3 高円~手向山 ― 2015年03月20日
高円
春日山の南。
(水垣注:高円は上代には「たかまと」と言ったらしい。)
宮人の袖つけごろも秋萩ににほひよろしき高円の宮
秋風は日毎に吹きぬ高まとの野辺の秋萩ちらまく惜しも
嫩草山
東大寺の東にあり。
なめらかさ油のやうな雨がふるうまし少女の若草山に
恋ひ恋ひし若草山の上に立てば春のゆふ日に涙こぼるゝ
幼子をともなひつれて春風の若くさ山にのぼりけるかな
手向山
手向山神社あり。
この度は幣もとりあへず手向山紅葉の錦神のまにまに
今ぞ知る手向の山はもみぢ葉の幣と散りかふ名にこそ有けれ
染めもあへず時雨るゝままに手向山紅葉をぬさと秋風ぞ吹く
補録
高円
高円の野辺の秋萩いたづらに咲きか散るらむ見る人なしに
猟高の高円山を高みかも出で来る月の遅く照るらむ
天雲に雁ぞ鳴くなる高円の萩の下葉はもみちあへむかも
高円の野辺のかほ花面影に見えつつ妹は忘れかねつも
高円の尾上の宮は荒れぬとも立たしし君の御名忘れめや
(「尾上の宮」は高円山にあった聖武天皇の離宮。)
夕されば衣手寒し高円の山の木ごとに雪ぞ降りける
しきしまや高円山の雲間より光さしそふ弓はりの月
高円の野ぢの篠原すゑさわぎそそや木枯けふ吹きぬなり
里は荒れぬ尾上の宮のおのづから待ちこし宵も昔なりけり
嫩草山
下もえのわか草山の雪どけにそれも見え行く谷のむもれ木
今日は又春雨ふりぬ春日野や若草山の同じみどりに
見れど飽かぬ嫩草山に夕霧のほのぼのにほふくさ萩の花
手向山
もみぢ葉を風にまかする手向山ぬさもとりあへず秋はいぬめり
いざさらば花のぬさをや手向山もみぢにあける神の心に
とりあへず紅葉をぬさと手向山神のこころを神やうけけむ

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