白氏文集卷十四 南秦雪2010年03月11日

南秦(なんしん)の雪 白居易

往歳曾爲西邑吏  往歳(わうさい)(かつ)西邑(せいいふ)()()
慣從駱口到南秦  駱口(らくこう)より南秦に到るに()
三時雲冷多飛雪  三時(さんじ) 雲冷やかにして多く雪を飛ばし
二月山寒少有春  二月(にがつ) 山寒くして春有ること少なし
我思舊事猶惆悵  我は旧事を思ひて ()惆悵(ちうちやう)
君作初行定苦辛  君は初行(しよかう)()して 定めて苦辛(くしん)せん
仍賴愁猿寒不叫  ()(さいはひ)愁猿(しうゑん)寒うして叫ばず
若聞猿叫更愁人  ()し猿の叫ぶを聞かば 更に人を(うれ)へしめん

【通釈】往年、私は西邑の官吏となり、
駱口から南秦への道を通い慣れたものだ。
春夏秋の三時も雲は冷え冷えとして、雪を舞わせることが多く、
二月になっても山は寒々として、春らしい季節は短い。
私はその頃のことを思い出して、さらに嘆き悲しむ。
あなたは初めての旅で、さぞかし苦労していることだろう。
しかし幸いなことに、寒すぎて猿が悲しげに叫ぶことはない。
もし猿が叫ぶのを聞けば、ひとしお君を悲しませるだろう。

【語釈】◇西邑 長安西郊の盩厔県。白居易は元和元年(806)その県尉となり、翌年まで滞在した。◇駱口 蜀へ向かう南山路の入口にある駅。

【補記】元和四年(809)三月、元稹が監察御史として蜀の東川に派遣された時三十二首の詩を詠み、白居易はそのうち十二首に和して酬いた。その第二首。下に引いた枕草子の歌は、当詩の頷聯を踏まえる。下句は藤原公任が第四句の「少有春」を「少し春ある」と訓んで翻案したものであり、これに清少納言が付けた上句は第三句の「雲冷多飛雪」を翻案したものである。

【影響を受けた和歌の例】
空寒み花にまがへてちる雪にすこし春ある心ちこそすれ(清少納言・藤原公任『枕草子』)
うづみ火にすこし春ある心ちして夜ぶかき冬をなぐさむるかな(藤原俊成『風雅集』)

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