和漢朗詠集卷上 蟬 發青泥店至長余縣西涯山口 ― 2010年07月05日
青泥店を発して、長余県西涯山口に至る 李嘉祐
千峯鳥路含梅雨
五月蟬聲送麥秋
【通釈】数知れぬ峰々には梅雨を含んだ雲が垂れ込め、鳥の路を阻んでいる。
五月になって鳴き始めた蝉の声は、麦秋の季節の終りを告げる。
【語釈】◇五月 陰暦五月は仲夏。◇麥秋 陰暦四月、初夏。麦を収穫する季節なのでこの名がある。
【補記】『和漢朗詠集』巻上夏「蝉」。『千載佳句』には「夏興」の部に収め、題「發青泥店至長余縣西涯山口」を記すが、詩の全容は知れない。『全唐詩』などにも見えず、早く散逸したものらしい。「五月蝉声送麦秋」を踏まえた和歌が見える。
【作者】
【影響を受けた和歌の例】
おくるといふ蝉の初声きくよりぞ今かと荻の秋を知りぬる(藤原道綱母『道綱母集』)
神まつる卯月もたてば五月雨の空もとどろに啼く蝉の声(藤原隆房『朗詠百首』)
五月かも麦の秋風蝉のこゑまじはる杜になく郭公(正徹『草根集』)
【参考】『平家物語』巻三
この島へ流されて後は、暦も無ければ、月日の立つをも知らず。只おのづから花の散り、葉の落つるを見ては、三年の春秋を弁へ、蝉の声麦秋を送れば夏と思ひ、雪の積るを冬と知る。
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