白氏文集卷十四 贈内2010年08月20日

秋の明月

(ない)に贈る     白居易

漠漠闇苔新雨地  漠漠(ばくばく)たる闇苔(あんたい) 新雨(しんう)の地
微微涼露欲秋天  微微(びび)たる涼露(りやうろ) 秋ならんとする天
莫對月明思往事  月明(げつめい)に対して往事(わうじ)を思ふこと(なか)
損君顏色減君年  君が顔色(がんしよく)を損じて君が年を(げん)ぜん

【通釈】果てしもなく苔に覆われた、雨上りの大地。
うっすらと涼しげな露が降りる、秋になろうとする天。
月明かりに向かって、昔を偲んではいけない。
あなたの容色を損ない、あなたの寿命を縮めるだろうから。

【語釈】◇漠漠 果てしないさま。◇闇苔 びっしりと覆っている苔。

【補記】晩夏、妻を思い遣って贈った詩。『千載佳句』巻上晩夏の部に初二句が引かれている。在原業平の名高い歌は第三・四句と一見よく似ているの一応掲げておいたが、業平の歌は天体としての「月」と歳月としての「月」をわざと同一視してみせた諧謔的趣向に眼目があり、趣旨は白詩と全く異なるものである。土御門院の御製は第三句の句題和歌。

【影響を受けた和歌の例】
おほかたは月をもめでしこれぞこのつもれば人の老いとなるもの(在原業平『古今集』)
袖の月に昔の秋な思ひ出でそそれゆゑにこそ影もやつるれ(土御門院『土御門院御集』)