佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』四国24 松山 ― 2017年01月02日
松山城より松山市街を望む
補録
松山
愛媛県の県庁所在地。松山城を中心とする城下町として発達した。道後温泉で名高く、また正岡子規や夏目漱石ゆかりの地として、文学との縁も深い。
池田基永妻の桂舟とともに、しばらく故郷へかへるべき事いできぬとて、暇申しに来たるときによめる
君がゆく伊予の松山年ふともいよいよ待たむ伊予の松山
故郷の御墓荒れけん夏草のゑのころ草の穂に出づるまでに
松山の城大いなる手のうへに宝塔のごと光る夕映
城山に高くのぼりて日にきらふ古ぐに伊予はわれのまにまに
正宗寺の墓にまうでて色あせし布団地も見つ君生けるがに
竹の里の大人も眠るや正岡家累代の墓さみだれのなか
四国路の旅の終わりの松山の夜の「梅錦」ひやでください
佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』四国25 熟田津 ― 2017年01月04日
松山市堀江漁港。熟田津の比定地の一つ。(いよ観ネットより)
補録
熟田津
伊予国(愛媛県)道後温泉辺りにあった船着場。詳細は不詳で、松山市堀江町・和気町など諸説ある。「にきたづ」「にぎたづ」「みきたづ」とも。
熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎいでな
(万葉集の左注に引く『類聚歌林』によれば、斉明天皇の作)
山部宿禰赤人の伊予温泉に至りて作る歌(反歌)
ももしきの大宮人の熟田津に船乗りしけむ年の知らなく
熟田津に舟乗りせむと聞きしなへ何ぞも君が見え来ずあるらむ
佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』四国26 道後温泉 ― 2017年01月06日
道後温泉本館
道後温泉
松山市より汽車、電車あり。(注:JR松山駅前より伊予鉄道の路面電車が利用できる。)
上つ代のかしこき君の浴みましし同じ温泉に我身ひたしつ
補録
山部宿禰赤人、伊予温泉に至りて作る歌一首(万葉集)
皇神祖の 神の命の 敷きいます 国のことごと 湯はしも 多にあれども 島山の 宣しき国と 凝々しかも 伊予の高嶺の 射狭庭の 岡に立たして 歌思ひ 辞思ほしし み湯の上の 木群を見れば 臣の木も 生ひ継ぎにけり 鳴く鳥の 声も変らず 遠き代に 神さびゆかむ 行幸処
(注:「伊予の高嶺」は石鎚山またはその山系を指すとする説が有力。「射狭庭の岡」は道後温泉裏の丘陵かという。)
湧きそめて名に流れこし伊予の湯のよよは湯桁の数も知られじ
(注:道後温泉は湯桁の数が多いことで知られたため、「伊予の湯桁」で数が多いことの例えとした。源氏物語などにも見える例え。)
足なへの病いゆとふ伊予の湯に飛びても行かな鷺にあらませば
湯の宿の階上の客かなしめりまた松山の城を見て立つ
伊予の温泉の夜は静まりいさ庭のゆづきの丘にふくろふの鳴く
佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』四国27 新居浜 ― 2017年01月08日
生子山(煙突山)より新居浜市街を望む(いよ観ネット)
補録
新居浜
愛媛県東部の市。北は燧灘に面し、南は四国山地を境として高知県と接する。別子銅山で栄えた。
武蔵野に秋風吹けば故郷の新居の郡の芋をしぞ思ふ
(注:愛媛県の郷土料理に里芋を煮込む「芋焚き」があり、秋の月見を兼ねて屋外で鍋を囲み宴をする風習がある。殊に新居浜の芋焚きは規模が大きく名高い。)
宗像の夜の森ゆつづく新居浜の町のともしび海の燈火
佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』四国28 四万十川 ― 2017年01月10日
補録
四万十川
高知県西部を流れ、土佐湾に注ぐ川。四国最長。清流で名高く、沈下橋の多いことでも知られる。
ゆふ空に片照る雲のあゆみおそく帆をおろしたる帆柱多し
君がほこりし四万十川を今渡る冬の水満ち堤ゆたかなり
四万十に光の粒をまきながら川面をなでる風の手のひら
佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』四国29 足摺岬 ― 2017年01月12日
佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』四国30 幡多 ― 2017年01月14日
中村・宿毛線 17:00頃「海の王迎」駅に到着。
補録
幡多
高知県(土佐国)の郡。かつては高知県西部一帯を占める大きな郡であったが、2017年現在、大月町・黒潮町・三原村の二町一村を含むのみである。黒潮町は、元弘の乱で土佐に流された尊良親王の上陸地として知られ、これに因み、同町上川口にある土佐くろしお鉄道中村線の駅には「海の王迎駅」の名が附けられている。
土佐国にて百首歌よみ侍りける中に、冬月
わが庵は土佐の山風冴ゆる夜に軒もる月もかげ凍るなり
佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』四国31 高知 ― 2017年01月16日
高知市街眺望
高知
土佐国の首府。(注:高知県の県庁所在地。山内氏が治める城下町として栄えた。『万葉集古義』の著者鹿持雅澄の旧居跡が福井町に残る。)
堀詰の電車通りの梅雨の街竹笠にしてうなぎ釣り居り
枇杷を買ひ雨のとまりに食べ居れば土佐の外海の海なり聞こゆ
闘犬にあはぬ日もなし打靡く一番稲の葉の黒みかも
補録
(注:「孕の海」は高知市の浦戸湾。)
南の海この里にして万葉の道の八十隈ひらきましつる
雅澄はまことますらをたはれをの名に立つわれやひとり恥づらく
お天守の板間に我はころぶせり四方の窓ゆ秋の風吹く
佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』四国32 桂浜 ― 2017年01月18日
佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』四国33 室戸岬 ― 2017年01月20日
川瀬巴水「土佐室戸岬」
補録
室戸岬
高知県室戸市。土佐湾の東端に突き出す岬。室戸崎とも。海蝕洞「御厨人窟」は空海修行の地と伝わる。
法性の室戸といへどわがすめば有為の浪風よせぬ日ぞなき
(注:「室戸」に、修行のため住み籠る「室」の意を掛けている。第二句「室戸ときけど」とする本もある。)
影みれば波の底なるひさかたの空こぎわたる我ぞわびしき
(注:『土佐日記』によれば、土佐の室津を目指して航行していた時に詠んだという歌。室津は室戸岬にある港。)
室戸崎吾がこきくれば磯触のよする荒磯に月照れる見ゆ
最御崎庭静けみと室戸の海競ひ漕ぎ出る海人の釣舟
はるばると室戸岬にわれは来ていきどほろしく荒海を見つ
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