『新校 拾遺愚草』電子出版について ― 2013年01月22日
定家の家集『拾遺愚草』全巻の本文を手軽に読める書物と言えば岩波文庫の『藤原定家歌集』(佐佐木信綱校訂)があります。というか、これ以外には見あたりません。当時得られる最善本を底本とした、この上なくすぐれたテキストだったのですが、なにしろ出版は昭和6年という昔で、その後改訂されることもありませんでした。何より定家の自筆本を踏まえていないことが致命的で、定家の真意を充全に伝えるテキストとは言えないものです。
定家の自筆本(正編のみ伝存)を翻刻した活字本としては、唯一、冷泉為臣編『藤原定家全歌集』があります(昭和15年、文明社刊。昭和49年、国書刊行会より復刻版刊)。高価ながら古書店で比較的容易に入手できます。しかし残念ながらこれは非常に誤りの多い本です。影印版と読み比べると、ほとんどページを繰る毎に自筆本との不一致が見つかります。
私家集大成や新編国歌大観に収録されているテキストにしても、自筆本を踏まえてはいません。我が国最高の歌人(と私は信じますが)が遺そうとした家集が、その遺志のままに、望ましいかたちで読める、信頼すべき活字本は存在しないのです。草葉の陰で定家も歎いていることでしょう。
私の作成した『新校 拾遺愚草』は、おこがましいことながら、その穴を埋めようとの、一つの試みです。正篇は自筆本の、員外は名古屋大学本(岩波文庫版の底本)の影印に基づいて作成した電子テキストを、他本と照合して校訂したものです。今のところ、公開されている唯一の、自筆本に基づく正篇を収めた『拾遺愚草』全巻(員外含む)の電子テキストになるはずです。
テキストの校了後まもなく日本向けkindleストアが開店となり、少しでも広く読んでもらえたらと、電子書籍にして刊行してみることにしたというわけです。
一つ出来上がってみると、電子書籍作りもそれなりに大変ですがなかなか面白く、電子出版を続けてみたい気持になって、「やまとうたeブックス」という屋号まで付けてしまいました。プロバイダ提供のホームページ容量が一杯になってしまったこともあり、「やまとうた」「波流能由伎」のコンテンツを書籍に移そうかとも考えているところです。
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