去者日以疎 古詩十九首より ― 2010年11月05日
古詩十九首 十四 作者未詳
去者日以疎 去る者は日に
來者日以親
出郭門直視
但見丘與墳
古墓犂爲田
松柏摧爲薪
白楊多悲風
蕭蕭愁殺人
思還故里閭
欲歸道無因 帰らんと欲するも道
【通釈】死者は日に日に忘れられ遠い存在となり、
生者は日に日に親しみを増す。
城郭の門を出てまっすぐを見れば、
ただ盛り土した大小の墓があるばかり。
古い墓は鋤き返されて田となり、
常緑の松や檜もいつか砕かれて薪となる。
箱柳に悲しげな風がしきりと吹きつけ、
蕭々と音立てて人を愁いに沈める。
故郷の村里に再び住むことを思い、
帰ろうと願うが、戻るべき道はない。
【語釈】◇松柏 「柏」はカシワでなくヒノキ・サワラ・コノテガシワなど常緑樹の総称。◇白楊 ハコヤナギ。風に葉が鳴るので「山鳴らし」とも言う。ポプラの仲間。
【補記】諺「去る者は日々に疎し」のもととなった詩。和歌では「松柏摧爲薪」や「白楊多悲風」を踏まえた作が見られる。「松柏催爲薪」は劉廷芝の「代悲白頭翁」にも引かれて名高い。
【影響を受けた和歌の例】
下葉すく岸の柳を吹く風の身にしむからに秋ぞかなしき(直仁親王『崇光院仙洞歌合』)
露の間にうつろふ花よさもあらばあれ松もたきぎとなる世なりけり(村田春海『琴後集』)
古里は松もたきぎにくだかれて風のやどりもむなしかりけり(井上文雄『大江戸倭歌集』)
【参考】『徒然草』第三十段
思ひ出でて偲ぶ人あらんほどこそあらめ、そもまたほどなく失せて、聞き伝ふるばかりの末々は、あはれとやは思ふ。さるは、跡とふわざも絶えぬれば、いづれの人と名をだに知らず、年々の春の草のみぞ、心あらん人はあはれと見るべきを、果ては、嵐に咽びし松も千年を待たで薪に摧かれ、古き墳は犂かれて田となりぬ。その形だになくなりぬるぞ悲しき。
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