白氏文集卷十四 晩秋夜 ― 2010年11月21日
晩秋の夜 白居易
碧空溶溶月華靜
月裏愁人弔孤影
花開殘菊傍疎籬 花
葉下衰桐落寒井 葉
塞鴻飛急覺秋盡
鄰雞鳴遲知夜永
凝情不語空所思 情を
風吹白露衣裳冷 風
【通釈】紺碧の夜空は広々として、月が静かに照っている。
月明かりの中、愁いに沈む人は自らの孤影を悲しんでいる。
色褪せた残菊が疎らな垣に添って咲き、
衰えた桐の葉は寒々とした井戸の上に落ちる。
北辺の鴻が忙しげに空を飛び、秋も末になったと気づく。
隣家の鶏はなかなか鳴き出さず、夜が長くなったと知る。
物言わず一心に物思いに耽っていると、
風が白露を吹いて、いつか夜着は冷え冷えとしていた。
【語釈】◇溶溶 ゆるやかなさま。やすらかなさま。◇愁人 詩人自身を客観視して言う。◇塞鴻 北の辺塞の地から飛来した鴻。鴻は大型の水鳥。ひしくい(大雁)や白鳥の類。
【補記】「寒鴻飛急覚秋深」を句題に大江千里が、「寒鴻飛急覚秋尽、隣鶏鳴遅知夜永」を句題に慈円と定家が歌を詠んでいる。
【影響を受けた和歌の例】
ゆく雁の飛ぶこと速く見えしより秋の限りと思ひ知りにき(大江千里『句題和歌』)
いかにせん夜半に待たるる鳥のねをいそがぬ秋と思はましかば(慈円『拾玉集』)
槙の屋にとなりの霜は白妙のゆふつけ鳥をいつか聞くべき(藤原定家『拾遺愚草員外』)
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