白氏文集卷六 東園翫菊 ― 2010年12月07日
少年昨已去 少年
芳歳今又闌
如何寂寞意
復此荒涼園
園中獨立久 園中に独り立つこと
日淡風露寒 日淡くして
秋蔬盡蕪沒
好樹亦凋殘
唯有數叢菊
新開籬落閒 新たに
携觴聊就酌
爲爾一留連
憶我少小日
易爲興所牽 興の
見酒無時節 酒を見ては
未飲已欣然 未だ飲まずして
近從年長來 近ごろ
漸覺取樂難
常恐更衰老 常に恐る 更に
強醉亦無歡
顧謂爾菊花
後時何獨鮮 時に
誠知不爲我 誠に我が為ならざるを知るも
借爾暫開顏
【通釈】青春時代は遠く去り、
男盛りの歳も最早過ぎようとしている。
どうしたことか、寂寞の思いが、
この荒れ果てた庭園に来ればよみがえる。
園中にひとり長く佇んでいると、
初冬の日は淡く、風や露が冷え冷えと感じられる。
秋の野菜はことごとく雑草に埋もれ、
立派な樹々もまた枯れ衰えた。
ただ数叢の菊が、
垣根の間に新しい花をつけている。
盃を手に、その前でひとまず酌むと、
菊よ、お前のために
思えば我が若き日々、
何事にもすぐ興味を惹かれたものだ。
酒を見れば、時節も関係なし、
飲まないうちからもう良い気分になっていた。
近頃、年を取ってからというもの、
次第に楽しみを得ることが難しくなってきた気がする。
更に老い衰えることを常に怖れ、
強いて酒に酔ったところで、やはり歓びは無い。
振り返って言う、菊の花よ、
時候に後れて、どうしてお前は独り色鮮やかなのか。
もとより私のためでないことは知っているが、
お前を力に、暫し私も顔をほころばせよう。
【語釈】◇芳歳 男盛りの年齢。◇蕪沒 蕪は荒々しく繁った雑草。その中にまぎれてしまったさま。◇籬落 まがき。
【補記】五言古詩による閑適詩。元和八年(813)、四十二歳の作。「唯有数叢菊、新開籬落間」を題に、慈円・定家・寂身が歌を詠んでいる。
【影響を受けた和歌の例】
しら菊の霜にうつろふませの中に今はことしの花も思はず(慈円『拾玉集』)
咲く花の今はの霜におきとめて残る籬の白菊の色(藤原定家『拾遺愚草員外』)
のこる色は秋なき時のかたみぞと契りし菊もうつろひにけり(寂身『寂身法師集』)
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