新刊のお知らせ『酒ほがひ』2019年08月16日

吉井勇「酒ほがひ」

Kindleにて吉井勇の第一歌集『酒ほがひ』の電子復刻版を発売しました。

原本は高村光太郎装幀の表紙、木下杢太郎の扉絵、藤島武二のカットという、贅を尽くしたつくりの、非常に美しい本です(上の表紙の画像は、汚れを取ったり彩度を上げたりなどのデジタル加工を施したものです)。扉絵やカットもデジタル画像として収録してあります。

明治43年の刊。明治末から大正初め頃にかけては、短歌の驚くべき隆盛期で、のち大歌人となる人達が次々に処女出版をしています。

与謝野晶子『みだれ髪』明治34年
太田水穂『つゆ草』明治35年
窪田空穂『まひる野』明治38年
若山牧水『海の声』明治41年
前田夕暮『収穫』明治43年
北原白秋『桐の花』大正2年
斎藤茂吉『赤光』〃

『酒ほがひ』はこの中に入れても全然遜色がない、どころか最もすぐれた歌集ではないかと思われるほどです。晶子は勇の登場によほど驚愕したのでしょう、「人麻呂―和泉式部―西行―勇」の順に和歌は発展した、といったことを書いている程です。

連作がおのずから物語をなすところに一特徴があり、勇の歌はアンソロジーによっては味読不可能です。作風は多彩で、最終章の「夢と死と」などは近代短歌というよりは現代短歌の祖みたいな感じです。「海の墓」は塚本邦雄の海洋短歌を思わせるところがあります(というか塚本が真似たのでしょう)。

明治書院の和歌文学大系にも入っているくらいで、文学史上の評価は揺るぎないのですが、晶子・白秋・茂吉あたりに較べるとあまり読まれていないように見えます。とても残念なことです。