佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』大和紀伊方面8 竜田 ― 2015年04月06日
竜田
王寺駅より近し。紅葉の名所。
立田川錦織りかく神無月時雨の雨をたてぬきにして
神なびの山を過ぎ行く秋なれば竜田川にぞぬさは手向くる
補録
海の底沖つ白波立田山いつか越えなむ妹があたり見む
夕されば雁の越えゆく竜田山しぐれにきほひ色づきにけり
竜田山見つつ越え来し桜花散りか過ぎなむ我が帰るとに
行かむ人来む人しのべ春霞たつ田の山の初桜花
竜田河もみぢみだれて流るめり渡らば錦なかや絶えなむ
風吹けば沖つ白波たつた山よはにや君がひとり越ゆらむ
誰がみそぎ木綿つけ鳥か唐衣たつたの山にをりはへて鳴く
竜田川もみぢ葉ながる神なびのみむろの山に時雨ふるらし
ちはやぶる神世も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは
年ごとにもみぢ葉ながす竜田川みなとや秋のとまりなるらむ
嵐吹くみむろの山のもみぢ葉は竜田の川の錦なりけり
竜田姫かざしの玉の緒をよわみ乱れにけりと見ゆる白露
立田山梢まばらになるままにふかくも鹿のそよぐなるかな
夕暮は山かげすずし竜田川みどりの影をくくる白浪
立田川岩根のつつじ影見えてなほ水くくる春のくれなゐ
竜田山あらしや嶺によわるらむ渡らぬ水も錦たえけり
つひにわがきてもかへらぬ唐錦たつ田や何のふるさとの空
佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』大和紀伊方面7 法隆寺 ― 2015年04月04日
奈良より関西本線によりて西すれば法隆寺に到るべし。
法隆寺
法隆寺駅より数町。有名なる壁画はその金堂にあり。また寺内の夢殿は聖徳太子の薨逝せられし処なり。
つばくらめあしたの原をかけり来て斑鳩寺のふところに入る
風鐸のかすかに鳴れば春の月淡くもふるふ塔の上に
夢殿の秘仏は今しとざされぬ扉にのこるまぼろしのゑみ
薄き日は壁画に匂ふなつかしき慈眼にすがり泣かまくほしき
桃散るや築地の垣のうすじめり雨になりゆく春の夢殿
補録
夜といへばねられぬ恋も故やあると夢殿にこそきかまほしけれ
ちとせ あまり みたび めぐれる ももとせ を ひとひ の ごとく たてる この たふ
夢殿の救世観音に
あめつち に われ ひとり ゐて たつ ごとき この さびしさ を きみ は ほほゑむ
われ等来つる靴のおとのみ甃石道のくさ霜枯れし夢殿の庭
夢殿をめぐりて落つる雨しづくいまのうつつは古の音
佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』大和紀伊方面6 西の京 ― 2015年04月03日
西の京
奈良市の西郊をいふ。
天平の濃き香にひたり西の京のみ寺めぐりに幾日過しつ
西大寺
西の京にあり。
さりともと西の大寺たのむかなそなたの願ともしかりしを
塔のあとの礎石に腰をおろし石間に生ひしかたばみを見る
菅原
西大寺に近し。
いざ此所にわが世は経なん菅原や伏見の里の荒れまくも惜し
菅原やふしみの暮に見渡せば霞にまがふ小初瀬の山
何となく物ぞ悲しき菅原や伏見の里の秋のゆふぐれ
ほととぎすしばしやすらへ菅原や伏見の里の村雨の空
明方に夜は成ぬらし菅原や伏見の田居に鴫ぞ立つなる
立花のにほふときにはあらねどもむかし恋しきすが原の里
垂仁天皇陵
菅原寺の南にあり。陵の傍に遺臣田道間守の墓あり。
ゆく秋の雲はうかびぬ陵の山の木立をめぐれる池に
春の雨垂仁帝のみさゝぎをめぐれる池の浮草にふる
唐招提寺
垂仁天皇陵の南方。
吾は悲し春の日匂ふ金堂の扉の前に佇みゐたり
人の世の悲しみ負ひて美しく静寂にいます盧舎那仏かな
敷石のわが沓の音をかへり見ぬ夜の灯くらき唐招提寺
薬師寺
唐招提寺の南四町。寺内に仏足石及その歌碑あり。
とぶ鳥のゆくへあかるく黄に熟れし稲田の上の古きあらゝぎ
ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの雲
秋篠
奈良の西、生駒山の東麓にあり。
秋篠や外山の里やしぐるらん生駒の嶽に雲のかゝれる
朝日さす生駒の嶽はあらはれて霧たちのぼる秋篠の里
あれはてし秋篠寺の古へを語り顔なる松の一もと
補録
西の京
寒菊に涙さびしき夕別れせつなき別れ西の京にして
菅原
菅原や伏見の里のささ枕ゆめもいくよの人目よくらむ
をはつ瀬の鐘のひびきぞ聞こゆなる伏見の夢のさむる枕に
菅原や伏見の暮の面影にいづくの山もたつ霞かな
薬師寺
すゐえん の あま つ をとめ が ころもで の ひま にも すめる あき の そら かな
秋篠
しぐれつつ暮れてきのふの秋篠や外山の雲のうつりやすさよ
ながめやる外山すずしき夕立の雲よりやこし秋しのの里
生駒山嶺のこがらし音たえて雪しづかなる秋しのの郷
あきしの の みてら を いでて かへりみる いこま が たけ に ひ は おちむ と す
佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』大和紀伊方面5 佐保 ― 2015年04月02日
(写真は佐保川。wikipediaより)
佐保
奈良市の北方。
千鳥なくさほの川門の清き瀬を馬うち渡しいつか通はむ
うちのぼる佐保の河原の青柳は今は春べとなりにけるかも
誰が為の錦なればか秋霧の佐保の山辺を立かくすらむ
入日さす佐保の山辺の柞原くもらぬ雨と木の葉ふりつゝ
佐保川の秋を涸れたる細ながれくこの実赤う影投げにけり
補録
佐保
佐保川の清き川原に鳴く千鳥かはづと二つ忘れかねつも
千鳥鳴く佐保の川門の瀬を広み打橋渡す汝が来と思へば
佐保川の小石踏み渡りぬばたまの黒馬の来る夜は年にもあらぬか
我が背子が着る衣薄し佐保風はいたくな吹きそ家に至るまで
佐保山のははその紅葉ちりぬべみ夜さへ見よと照らす月影
ふるさとの佐保の河水けふもなほかくて逢ふ瀬はうれしかりけり
佐保山のははその色はうすけれど秋はふかくもなりにけるかな
佐保姫のうちたれ髪の玉柳ただ春風のけづるなりけり
さほ姫の衣はる風なほさえて霞の袖にあは雪ぞふる
佐保姫の染めゆく野べはみどり子の袖もあらはに若菜つむらし
佐保姫の霞の袖に髪すぢをみだすばかりの春雨の空
ふるさとの佐保の河水ながれてのよにもかくこそ月はすみけれ
Kindle for PC と Kindle for mac ― 2015年03月30日
とうに御存知の方も多いと思いますが、Kindleの電子書籍がウィンドウズPCとMacでも読めるようになりました。
Kindle for PC ダウンロードサイト
Kindle for mac ダウンロードサイト
いずれも無料です。電子ブックリーダーやアンドロイドのタブレット等をお持ちでない方も、Amazonの会員であればkindleの電子書籍が購読できるようになったわけです。
なお「for PC」は「Windows8.1,8,7用」とありますが、WindowsXPはサポート対象外ではあるものの、インストールは可能なようです。XPをお使いの方には念のため、XP対応を明記している下記サイトからのダウンロードをお奨めします。
http://kindle-for-pc.softonic.jp/
http://www.softpedia.com/get/Others/E-Book/Kindle-for-PC.shtml
詳しい紹介サイトは「ウィンドウズPCで電子書籍が読める!「Kindle for PC」が便利だよ」(幸呼来weblog)がお奨めです。
【追記】
旧いバージョンのKindle for PCは和書には対応していないようです。試しにXP機に最新バージョンをインストールしてみたところ、ちゃんと使えます。自己責任にてインストールして下さい。
一葉歌集について(つづき) ― 2015年03月29日
昨日ブログに書いた件ですが、問い合わせ後30分もしないうちにメールがありました。Amazonの対応の速さにはいつも驚かされます。
和歌集が「漢詩」のカテゴリに入ってしまったことにつき「ウェブサイトには参照カテゴリーが表示されるため」との説明でした。よく分からないのですが、「漢詩」のカテゴリを参照してから一葉の歌集に辿り着く人が多いということなのでしょうか。頼んで「漢詩」のカテゴリ表示は削除してもらいました(その対応も迅速でした)。
それはともかく『一葉歌集』は刊行直後から大変好調な売れ行きで(と言っても電子書籍ですからたかが知れたものですが)驚いております。
花始開
さくら花おそしと待ちし世の人を驚かすまで咲きし今日かな(一葉)
一葉歌集について ― 2015年03月28日
『一葉歌集』の商品詳細ページで、「Amazonベストセラー商品ランキング」に「漢詩」のカテゴリが表示されていますが、これはアマゾン側の不手際です。私は出版の際「漢詩」のカテゴリを撰択していないのに、なぜか「漢詩」のカテゴリに入ってしまっているのです。もとより本書に漢詩は含まれません。皆様には誤解されませぬように。この件に関しましてはアマゾンに問い合わせ中です。
新刊のお知らせ ― 2015年03月27日
樋口一葉の和歌集『一葉歌集』の電子書籍(kindle版・epub版)を刊行しました。
大正元年十一月博文館より出版された本の復刊です。
一葉の和歌は厖大な数に上るようですが、本書は佐佐木信綱が精撰した四百五十余首を収めています。
以前ちくま文庫から出た『樋口一葉和歌集』は佐佐木信綱の撰歌をそのまま使っていたので、歌そのものは全く同じになります。ちくま文庫の本は品切れなのか、古書店で高値で取引されているようです。
本書では附録として、一葉の和歌観を知る手がかりとなる一章を含むエッセイ集『随感録』を巻末に収めました。「切なる恋の心は尊ときこと神の如し」「学者に無学多く、法律家に不法のことゞも多きは、今にはじまりけるにもあらじ」といった名句・警句の宝庫とも言うべき、知る人ぞ知る名エッセイです。
アマゾンへはこちらからどうぞ。
楽天へはこちらから。

ちくま文庫
更新のお知らせ ― 2015年03月22日
『拾遺愚草』資料集に、冷泉為臣編『藤原定家全歌集』未収録の歌を集めた「定家歌補遺」、定家仮名遣と歴史的仮名遣の違いをまとめた「定家仮名遣と歴史的仮名遣」をアップしました。いずれも暫定版です。縦書・ルビ対応のブラウザ(Chrome、IE、Safari等)の最新バージョンで御覧下さい。
佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』大和紀伊方面4 東大寺 ― 2015年03月21日
三月堂
奈良第一の古建築。
いにしへの巨き匠の霊ごもる執金剛を見ればたふとし
二月堂
踏み踏みてくぼめる石のきだはしを吾もふみゆく二月堂へと
天平のかをりゆかしく袖にしめて秘仏ををがむ春二月堂
東大寺
東大寺仁王の門を静かなるうす墨色にぬらす秋雨
大仏殿
東大寺の本堂、五丈三尺の大仏を安置す。
天平の帝のみ眼にゑがかせる其日おもひつ大き御仏
供養をへて吾が大仏を仰ぎ見し仏師のまみに満ちけむ涙
旅人の五人六たり春の日は大仏殿のいらかにぞさす
正倉院
大仏殿の北西に接せり。
さく花のさかえし御代を物語るこれのみ倉の尊く嬉しき
補録
三月堂
びしやもん の おもき かかと に まろび ふす おに の もだえ も ちとせ へ に けむ
東大寺
ひむがし の やまべ を けづり やま を さへ しぬぎて たてし これ の おほてら
大仏殿
おほらかに もろて の ゆび を ひらかせて おほきほとけ は あまたらしたり
あまたたび この ひろまへ に めぐり きて たちたる われ ぞ しる や みほとけ
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