佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』大和紀伊方面6 西の京 ― 2015年04月03日
西の京
奈良市の西郊をいふ。
天平の濃き香にひたり西の京のみ寺めぐりに幾日過しつ
西大寺
西の京にあり。
さりともと西の大寺たのむかなそなたの願ともしかりしを
塔のあとの礎石に腰をおろし石間に生ひしかたばみを見る
菅原
西大寺に近し。
いざ此所にわが世は経なん菅原や伏見の里の荒れまくも惜し
菅原やふしみの暮に見渡せば霞にまがふ小初瀬の山
何となく物ぞ悲しき菅原や伏見の里の秋のゆふぐれ
ほととぎすしばしやすらへ菅原や伏見の里の村雨の空
明方に夜は成ぬらし菅原や伏見の田居に鴫ぞ立つなる
立花のにほふときにはあらねどもむかし恋しきすが原の里
垂仁天皇陵
菅原寺の南にあり。陵の傍に遺臣田道間守の墓あり。
ゆく秋の雲はうかびぬ陵の山の木立をめぐれる池に
春の雨垂仁帝のみさゝぎをめぐれる池の浮草にふる
唐招提寺
垂仁天皇陵の南方。
吾は悲し春の日匂ふ金堂の扉の前に佇みゐたり
人の世の悲しみ負ひて美しく静寂にいます盧舎那仏かな
敷石のわが沓の音をかへり見ぬ夜の灯くらき唐招提寺
薬師寺
唐招提寺の南四町。寺内に仏足石及その歌碑あり。
とぶ鳥のゆくへあかるく黄に熟れし稲田の上の古きあらゝぎ
ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの雲
秋篠
奈良の西、生駒山の東麓にあり。
秋篠や外山の里やしぐるらん生駒の嶽に雲のかゝれる
朝日さす生駒の嶽はあらはれて霧たちのぼる秋篠の里
あれはてし秋篠寺の古へを語り顔なる松の一もと
補録
西の京
寒菊に涙さびしき夕別れせつなき別れ西の京にして
菅原
菅原や伏見の里のささ枕ゆめもいくよの人目よくらむ
をはつ瀬の鐘のひびきぞ聞こゆなる伏見の夢のさむる枕に
菅原や伏見の暮の面影にいづくの山もたつ霞かな
薬師寺
すゐえん の あま つ をとめ が ころもで の ひま にも すめる あき の そら かな
秋篠
しぐれつつ暮れてきのふの秋篠や外山の雲のうつりやすさよ
ながめやる外山すずしき夕立の雲よりやこし秋しのの里
生駒山嶺のこがらし音たえて雪しづかなる秋しのの郷
あきしの の みてら を いでて かへりみる いこま が たけ に ひ は おちむ と す
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