佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』大和紀伊方面12 藤原宮址~飛鳥川 ― 2015年04月11日
藤原宮址
大和の三山に囲まれたる地方。
藤原の大宮所菜の花の霞める遠の天の香具山
三山
藤原の古京を中心として立てる、天の香具山、耳成山、畝傍山の三山をいふ。
見渡せば天の香具山うねび山あらそひたてる春がすみかな
三山は霞にうかびこもりくの初瀬あたりにひばりなくなり
ちらばれる耳成山や香具山や菜の花黄なる春の大和に
天香具山
桜井より西すれば左に見ゆ。
春過ぎて夏来たるらし白たへの衣ほしたり天の香具山
久方の天の香具山この夕べ霞たなびく春立つらしも
古への事は知らぬを我見ても久しくなりぬ天の香具山
香具山の尾上に立ちて見渡せば大和国原さなへとるなり
あさづく日にほへる時に久方の天のかぐ山見るがたふとさ
耳成山
桜井駅より西する汽車の右に見ゆ。
耳なしの山のくちなし得てしがな思の色の下ぞめにせむ
畝傍山
天の香具山と相対してその西方平野の中に立つ。三山中最高し。
うねび山見ればかしこし橿原のひじりの御世の大宮所
神代をもかけてぞしのぶ玉だすき畝火の山の今日し見つれば
神武天皇陵
畝傍山の東北麓にあり、神武天皇を祀れる橿原神宮は畝傍山の東南にあり。
ひろまへに玉ぐしとりてうねび山高き御稜威を仰ぐ今日かな
飛鳥川
天の香具山と畝傍山との中間を流れて大和川に入る川、このあたり古昔の飛鳥の京の故地なり。
いにしへを思へば遠し飛鳥川いくたびかはる淵瀬なるらむ
浅う澄む飛鳥の川の秋の水に蠶棚いくらもひたしてありぬ
秋雨に飛鳥を行けば遠つ世の思ひするかな萩の花ちる
飛鳥路を行けばつちくれ小山にもふるき幻うかびてありけり
補録
三山
香具山と耳成山とあひし時立ちて見に来し印南国原
天香具山
大和には 群山あれど とりよろふ 天の香具山 登り立ち 国見をすれば 国原は 煙立ち立つ 海原は 鴎立ち立つ 美し国ぞ 蜻蛉島 大和の国は
十市には夕立すらし久方の天の香具山雲がくれゆく
ほのぼのと春こそ空に来にけらし天のかぐ山霞たなびく
耳成山
耳成の池し恨めし我妹子が来つつ潜かば水はかれなむ
畝傍山
狭井河よ 雲たち渡り 畝傍山 木の葉さやぎぬ 風吹かむとす
もののふの篝焼くらしうねび山とよはた雲と煙たつなり
飛鳥川
飛鳥河水漲ひつつ行く水のあひだも無くも思ほゆるかも
飛鳥川もみぢ葉流る葛木の山の木の葉は今し散るらし
世の中はなにか常なるあすか川きのふの淵ぞけふは瀬になる
昨日といひ今日と暮らしてあすか川流れてはやき月日なりけり
飛鳥川かはらぬ春の色ながら都の花といつにほひけん
夕されば蛙なくなり飛鳥川瀬々ふむ石のころび声して
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