佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』東海道線11 富士川~安倍川 ― 2015年02月22日
写真は三保の松原。無料写真ギャラリー[まんでがん] より。
富士川
朝日さす高ねのみゆき空はれて立ちも及ばぬふじの川霧
高根には雪みえ初めて富士川のわたり瀬さむし秋のゆふなみ
おちたぎちはしり流るる富士川の瀬枕ごとにねたる鳥かな
川どめも今朝よりあきし富士川の渡りせ広く霧たちこめぬ
神山は半かくれてふじ川のひろき川原に匂ふ秋の日
岩瀬
富士川の右岸
軒端よりふりさけ見れば富士の嶺はあまり俄にたてりける哉
古渓の松のひまより眺めやる田子の浦なみ伊豆の島山
見るがうちに高嶺は消えて富士川の早瀬を走る夕立の雨
清見潟
興津付近の海岸。
清見潟あとは昔の名のみにて波の関もる月のかげかな
庵原の清見がさきに朝はれて富士は秋こそ見るべかりけれ
清見潟春の海漕ぐ舟の櫓の音もしづかに心のどけし
清見潟おきつ白浪さわげども夕日に眠る三保の松原
興津
沖津より夕越えくれば山松のこずゑにかかる富士のしら雪
かへりこぬ夜舟まちこひ三保の浦の興津の海女や衣うつらむ
富士の峰をうつす入江のたゞ中に一すぢ青し三保の松原
清見寺夕べはことに物はかな棕梠竹に降る初夏の雨
沖は雨白き薄絹ひけるごと三保はかすかに波にうかべり
三保の松原
清見潟の前に海上に突出せる松原。
世に知らぬ眺なればや天人のあまくだりにし三保の松原
清見がたかすみの間より見渡せば浪にたゆたふ三保の松原
ふじのねの雪の夜あらし吹落ちてちどりなきたつ三保の松原
清水より三保へと通ふ渡船われたゞひとり富士にむかへり
さら〳〵と海の風うけて砂糖黍あをきが上に雪の富士みゆ
ひき潮の干潟々々のたまり水うつれる富士をふみてたつ鳥
影ひたす富士をうつして幾十の海苔採りぶねに賑はへる海
椿咲く藁屋の軒に三四人稲こき居るも富士を背にして
龍華寺
江尻より南一里、高山樗牛の墓あり。
大いなる自然の袖につゝまれて安らに眠る才人の墓
三保の海に影うく富士の美しさ夕立晴れし龍華寺の庭
久能山
江尻と静岡の中間にあり、徳川家康を祀る。
椿さく久能の御坂の七まがりまがりてくれば雉子なくなり
海ぞひや北を山なる畑みちいちごみのれり初春にして
山つゞき柑子の花のあまき香につつまれつゝも沖の船見る
静岡
駅より西北十六町に賤機山あり。その山麓に浅間神社あり。
誰が為ぞ賤機山の永き日に声のあやおる春の鶯
けさ見れば賤機山のこずゑより紅葉の錦おりぞそめつる
鶯の声のあやめもわかぬまで早くれそむる賤はたの山
安倍川
静岡の西を流る。
焼津辺に吾が行きしかば駿河なる安倍の市路にあひし女はも
安倍川の流ほそれる冬の日に時得がほなる木枯の森
補録
興津
こととへよ思ひおきつの浜千鳥なくなく出でし跡の月かげ
伊豆手舟はや来寄すらしあなし吹く駿河の海の三保の興津に
清見潟
ちぎらねど一夜はすぎぬ清見がた波にわかるるあかつきの雲
清見がた月はつれなき天の門を待たでもしらむ波の上かな
さすらふる心に身をもまかせずは清見が関の月を見ましや
三保の松原
廬原の清見の崎の三保の浦のゆたけき見つつ物思ひもなし
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