新刊のお知らせ 折口信夫の本五冊 ― 2016年06月08日

先月から今月にかけ、折口信夫(釈迢空)の電子書籍をさらに五冊刊行しました。

画像をクリックすると、Amazonの商品ページへ移りますので、詳しくはそちらを御覧下さい。

『世々の歌びと』のみは楽天Koboでも販売しております。

世々の歌びと【電子書籍】[ 折口信夫 ]

折口信夫の電子書籍はもう数冊刊行の予定です。

梅雨の広葉樹林と銀竜草(季節の記録) ― 2016年06月24日

6月15日、八王子に住む友人に誘われ、久しぶりに山歩きをした。山梨県小菅村と大月市の境をなす松姫峠の登山口から、鶴寝山を経て大マテイ山の山頂まで。おおむね平坦な尾根道が、水楢や山毛欅の繁る森の中を通っている。歩き始めた頃は春蝉が鳴きしきっていたが、日が陰ると静寂に包まれ、時々鳥の声が響くだけ。霧が濃くなると、何とも幻想的な風景になった。

霧の鶴寝山

林床に銀竜草を見付けた。菌類に寄生する植物だそうだ。

銀竜草(ギンリョウソウ)

時に水楢や栗、山毛欅などの巨樹に遭う。樹皮が古色蒼然として美しい山毛欅の大木は私の最も愛する樹木だ。東京からこんなに近いところに、これほど山毛欅の多い森があるとは知らなかった。多摩川の水源をなす森なので大切に守られているとのことだ。

山毛欅(ブナ)の大木

橡の巨木も。推定樹齢約六百年という。

橡(トチノキ)の大木

昆虫の写真を趣味にしている友人は毎週のように通っていると言うが、あまり知られていないハイキングコースのようで、登山口まで行くバスもハイ・シーズンの土日のみ運行とのこと。我々以外、登山客は一人として見かけることがなかった。深い森の精気に浸れた一日だった。


佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』山陽線6 閑谷~久米のさら山 ― 2016年06月26日

川瀬巴水画後楽園延養亭

画像は川瀬巴水「岡山後楽園」

閑谷しずたに

吉永駅(注:山陽本線の駅。岡山県備前市吉永町)の近傍左方の丘陵の彼方にあり。熊沢蕃山が池田光政の命によりて子弟の教育に従事せし閑谷黌しづたにくわうのある処。

 

白岩艶子

山ゆりの花ところどころ初夏はほととぎすきく閑谷の里

後楽園

岡山市にあり。(注:岡山藩主池田綱政によって造営された庭園で、日本三名園の一つ。延養亭の庭に舞い降りた丹頂鶴を見て綱政が和歌を詠んだ記録が残る。)

 

延養亭の鶴を
池田綱政

幾千代をかさねかすらん庭の面にきつつ馴れにし鶴の毛衣

後楽園にて
徳大寺実則

つくりけん心も見えて国民くにたみの後に楽しむ園ぞゆかしき

志田義秀

陽ひの光梅に流れて昼深く若草を踏む鶴の静けさ

落つる陽を蘇鉄林の照りかへす唯心山ゆゐしんざんの夕ながめかな

岡山より中国鉄道(注:今のJR津山線にあたる)によりて津山に到る。

久米のさら山

津山より近し。(注:美作国久米郡佐良山。今の岡山県津山市。)

 

水尾みづのをの御べの美作国の歌(古今集)

美作みまさかや久米のさら山さらさらにわが名は立てじ万代よろづよまでに

後醍醐天皇(増鏡)

聞きおきし久米のさら山越えゆかん道とはかねて思ひやはせし

補録

後楽園

池田綱政

千代やへん空とぶ鶴のうちむれて庭におりゐる宿の行末

斎藤茂吉

この園の鶴たづはしづかに遊べればかたはらに灰色はひいろの鶴たづの子こひとつ

久米のさら山

伊勢(伊勢集)

みまさかや久米のさら山さらさらに昔の今も恋しきやなぞ

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』山陽線7 福山・鞆 ― 2016年06月28日

鞆の浦 仙酔島

写真は鞆の浦の仙酔島(福山観光情報サイトのフォトライブラリーより)。

福山

阿部氏の旧城下。

新井洸

福山城の天主に立てば真下まつしたに桜花見ゆ三味線もきこゆ

弾丸たまよけのくろがね張りし天守閣花曇りせる空に高しも

鞆

福山より軽便鉄道あり(注:かつて福山から鞆まで鞆鉄道線が通じていたが、昭和二十九年に廃止された)。瀬戸内海に臨む。古来の要津。

平岡呉岳

夢の国か神の国かも鞆の江の仙酔島せんすいじまの春のあけぼの

補録

鞆の浦

広島県福山市鞆地区の入江。万葉集以来の歌枕。

大伴旅人(万葉集)

我妹子わぎもこが見し鞆ともの浦の天木香樹むろのきは常世とこよにあれど見し人ぞなき

鞆の浦の礒のむろの木見むごとに相見し妹は忘らえめやも

作者未詳(万葉集)

海人あま小舟をぶね帆かも張れると見るまでに鞆の浦廻うらみに波立てり見ゆ

檉
宗尊親王

つれなさのこれやうき身のともの浦さびしくたてる磯のむろの木

木下長嘯子

わすれめや霞のひまの磯づたひ漕ぎいづる舟のともの浦波

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』山陽線9 尾道 ― 2016年06月30日

千光寺公園より尾道水道を望む

千光寺公園より尾道水道を望む。

尾道

尾道瀬戸に臨む。

橋本鶴南

吉備と安芸と伊予の八十島薄く濃く重なる山を海ごしに見る

川田順

船ゆ仰ぐ港の山のちさき寺若葉の中に朝の鐘鳴る

補録

十返舎一九

日のかげは青海原を照らしつつ光る孔雀の尾の道の沖

緒方洪庵

軒しげくたてる家居よあしびきの山のをのみち道せまきまで

柳原白蓮

ちち母の声かときこゆ瀬戸内にみ寺の鐘のなりひびくとき

吉井勇

千光寺の御堂へのぼる石段はわが旅よりも長かりしかな

中村憲吉

千光寺に夜もすがらなる時の鐘耳にまぢかく寝ねがてにける

岩かげの光る潮より風は吹き幽かに聞けば新妻のこゑ

中村憲吉君七周忌
斎藤茂吉

尾道の円居まとゐに行かばもろともに日の照る丘を今日は越えけむ

(注:尾道は中村憲吉終焉の地。)