佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』山陽線10 広島2016年07月02日

広島市街と太田川

広島

明治二十七八年の戦役に明治天皇の大本営となりし地。

 

日清役出征途中作
乃木希典

数ならぬ身にも心のいそがれて夢安からぬ広島の宿

永嶋英子

風ふけば並木のポプラ嬉しげに青き袖ふる川のをち方

補録

月前遠情
明治天皇

たむろしてよなよな見てし広島の月はそのよにかはらざるらむ

湯川秀樹

まがつびよふたたびここにくるなかれ平和をいのる人のみぞここは

近藤芳美

川浅くなりたる街を今日は行く夕べ寂しき広島の鐘

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』山陽線11 厳島2016年07月05日

川瀬巴水画雪の宮島

川瀬巴水画「雪の宮島」

厳島

宮島駅より海を隔てて厳島あり。島に厳島神社あり。

 

熊谷直好

わたつみの浪の白ゆふかけてけり神の鳥居にみつる朝しほ

今北洪川

千早ぶる神のみまへのわたつみは眺めも清きかがみなりけり

広前のなぎたる海に照る月は神のこころをうつすなりけり

チヤンバアレン(注:バジル・ホール・チェンバレン)

世にたぐひなみのうへにも宮ばしらたててたふとき神の御社

正岡子規

百照すともし火百の影落ちていつき島宮潮満ちにけり

補録

社頭祝
藤原経尹

せめて世をまもるちかひやいつくしま浪のほかにも風ぞのどけき

宮島にて
若山牧水

青海はにほひぬ宮の古ばしら丹なるが淡う影うつすとき

厳島にて
会津八一

みやじま と ひと の ゆびさす ともしび を ひだり に み つつ ふね は すぎ ゆく

ふたたび厳島を過ぎて

うなばら を わが こえ くれば あけぬり の しま の やしろ に ふれる しらゆき

ひとり きて しま の やしろ に くるる ひ を はしら に よりて ききし しほ の ね

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』山陽線12 錦帯橋~萩2016年07月07日

春の錦帯橋

錦帯橋

岩国にあり。

 

鈴木雅彦

川原にり錦帯橋の組立をあげつろひ語る春の旅人

山口

毛利氏の旧城市。

 

岩田まさ子

松おほしいささ小流れ黄昏れて長府の町はしづかなる町

山口より北十一里。日本海に面す。毛利氏の城址あり。

 

福原俊丸

たたなはる城の石垣あれはててまつはる蔦のこころかなしも

補録

岩国山

万葉集由来の歌枕。岩国市西南の欽明路峠かという。

山口若麻呂(万葉集)

周防なる岩国山を越えむ日は手向けよくせよ荒しその道

不逢恋
藤原家隆

逢ふことは君にぞかたき手向して岩国山は七日なぬかこゆとも

宗尊親王

手向せしいはくに山の峰よりも猶さがしきはこの世なりけり

今川了俊(道行触)

立ちかへり見る世もあらば人ならぬ岩国山もわがともにせむ

山口

山口の瑠璃光寺にて
若山牧水

山静けし山のなかなる古寺の古りし塔見て胸仄に鳴る

吉井勇

萩に来てふとおもへらくいまの世を救はむと起つ松陰は誰

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』山陽線13 下関・阿弥陀寺2016年07月10日

関門海峡 火の山公園より

関門海峡 火の山公園より

下関

中国の西南端にして下関海峡の北岸にあり。

村山松根

早鞆はやともの瀬戸のたか汐引島にただよひのこるあさがすみかな

(注:早鞆の瀬戸は関門海峡の東寄りに位置する瀬戸で、今関門橋が架かる。源平合戦の古戦場。)

金塚光

早ともの早瀬に春の色みちて満珠干珠は汐ぐもりせり

佐佐木信綱

早鞆の瀬戸の早潮緑潮朝日にかをるきさらぎ廿日

宗方清子

関門の海峡にして日がくれぬ旅にあることもすこし悲しき

阿弥陀寺

下関市の東方にあり。安徳天皇の御陵、また平氏一族の墳墓あり。

石引夢男

阿弥陀寺のふるき畳の匂ひさへ涙ぐましき春の日あたり

補録

下関

慈円

涙ゆゑ袖も赤間の関なれと頃はもみぢに枝かくせども

(「赤間の関」は下関の旧名。)

銀杏満門

岩硯海より深く思ふぞよ顔は赤間の関のへだてに

(下関は硯の高級品赤間硯の産地としても知られた。)

周防の国富海とのみより故郷へ送れる文の中に

久坂玄瑞

ふるさとの花さへ見ずに豊浦とようらにひ防人さきもりと我は来にけり

(「豊浦」は下関市豊浦町に地名が残る。響灘に面する。幕末、外国艦船が停泊していた。)

下の関にて
若山牧水

桃柑子芭蕉の実売る磯街の露店の油煙青海にゆく

佐藤佐太郎

ひとかたに流るる渦の見ゆるまで中空なかぞらの月海峡に照る

祝島

熊毛郡上関町。周防灘の東端の小島。

遣新羅使

家人は帰り早祝島いはひしまいはひ待つらむ旅行く我を

海辺霞
大内政弘

心なき海士も春とや祝ひ島舟路のどかに波ぞかすめる

香川景樹

正月むつきたつ今日にしあれやいはひじま小松がうれにたづさはに鳴く

阿弥陀寺

赤間関阿弥陀寺と云ふ所に、安徳天皇の木像まします、拝したてまつるに住持法楽に一首と有りて、たんざくを出だされ侍るに

正広

かくばかりいとけなき君をしづめきや此の浦つらき浪の上かな

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』山陰線1 保津川2016年07月12日

保津川 トロッコ列車より

トロッコ列車より保津川を望む

保津川

亀山より嵐山の渡月橋まで四里の急流を一時間にて舟行すべし

 

左右田翠松

保津川を下す舟子が岩角に棹あつるみれば心たわみぬ

補録

保津川

桂川の上流。大堰川の一部。「通常、亀岡盆地と京都盆地との間の山地を流れる部分をいう。嵐山付近から下流は桂川となる」(広辞苑第五版)。嵯峨駅から亀岡駅まで、峡谷沿いにトロッコ列車が運行している。

題しらず    大江嘉言(万代集)

亀山のうへの古草やくならし大堰おほゐのかたにけぶりたつ見ゆ

与謝野晶子

保津川の水に沿ふなる女松山幹むらさきに東明しののめするも

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』山陰線2 西舞鶴2016年07月14日

田辺城 Railstation.net フリー写真

田辺城(京都府舞鶴市)

綾部駅より舞鶴線によりて天の橋立方面に至る。

西舞鶴(田辺)

古く田辺といふ。慶長五年細川幽斎の籠城せし地。城址いま公園となりて心種園といへり。

 

慶長五年七月廿七日、丹後国籠城せし時、古今集証明の状式部卿智仁親王へたてまつるとて

細川幽斎

いにしへも今もかはらぬ世の中に心の種をのこす言の葉

(注:石田三成の西軍に包囲され、丹後田辺城に籠城していた時、古今伝授の秘伝書と共に智仁親王(後陽成天皇の同母弟)に奉った歌。親王は兄天皇に幽斎の助命を奏請し、これを受けて天皇は勅使を派遣し講和を実現させた。)

補録

琴引浜(網野の浦)

京都府京丹後市にある砂浜。鳴き砂で名高い。

細川幽斎

根上がりの松に五色の糸かけつ琴引き遊ぶ三津の浦浜

細川ガラシャ

名に高き太鼓の浜に鳴神のをちにも渡る秋の夕さめ

与謝野鉄幹

遠く来て我が行く今日の喜びもともに音を立つ琴引の浜

与謝野晶子

おく丹後おくの網野の浦にして入日をおくる旅人となる

人踏めば不思議の砂の鳴る音も寂しき数の北の海かな

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』山陰線3 天の橋立2016年07月16日

安藤広重天橋立図

安藤広重 天橋立図

天の橋立

新舞鶴より舟行して到るべし、宮津湾中に横れる沙嘴なり。松の下道の長く海に突き入ること廿八町南端は切戸の小海峡を隔て文殊と相対せり。(注:現在では京都丹後鉄道の天橋立駅が利用できる。)

源俊頼(詞花集)

なみたてる松のしづえをくもでにて霞みわたれる天の橋立

大江義重(玉葉集)

橋立や松ふきわたる浦風に入海とほくすめる月影

藤井喜一

橋立の松の中道砂光るゆふべを来けりはつ夏の旅

松かさの落つる音して橋立の真白真砂路しづけくもあるか

宮津より栗田村に越ゆる坂路にたちて
長塚節

鯵網を建て干す磯の夕なぎに天の橋立霧たなびけり

九条武子

あかつきの欄にゐよれば久方のあまのはしだて神世の如し

補録

丹後国にまかりける時よめる
赤染衛門

思ふことなくてぞ見まし与謝の海の天の橋だて都なりせば

小式部内侍(金葉集・百人一首)

大江山いく野の道の遠ければまだふみもみず天の橋立

海路
祐子内親王家紀伊(堀河百首)

舟とめて見れどもあかず松風に波よせかくる天の橋立

浦冬月
細川幽斎

雲はらふ与謝の浦風さえくれて月ぞ夜わたる天のはしだて

後水尾院

浪の音に聞きつたへても思ふぞよふみ見ばいかに天の橋立

与謝野寛

小雨はれみどりとあけの虹ながる与謝の細江の朝のさざ波

丹後舞鶴の港より船に乗りて宮津ヘ志す
長塚節

真白帆のはららに泛ける与謝の海や天の橋立ゆほびかに見ゆ

吉井勇

ひさかたの天の橋立ここに来てあはれとぞ思ふ小式部の歌

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』山陰線4 玄武洞・城崎温泉2016年07月18日

城崎温泉遠望

城崎温泉遠望 城崎温泉無料写真集(http://photo.kinosaki2.net/)より

これより山陰本線に還る。

玄武洞

玄武洞駅前、豊岡川の対岸にあり。

小川郁

岩づたふしづくのたまりうす暗き洞穴の底に光りてありけり

城崎温泉

城崎駅所在地。

木下利玄

大き雲に日の入りゆけば山の上のやしろの松に風のさびしも

高田相川

湯あみをへてながむる庭の山吹にゆく春惜しむきのさきの里

補録

城崎温泉

舒明天皇の時代に発見されたという古湯。古くは「但馬の湯」と呼ばれた。文人にも愛され多くの文学作品を生んだが、ことに志賀直哉の短編小説「城の崎にて」は名高い。

 

花のさかり但馬の湯より帰る道にて雨にあひて

吉田兼好

しぼらじよ山分け衣春雨に雫も花も匂ふたもとは

与謝野寛

手ぬぐひを下げて外湯に行く朝の旅の心を駒げたの音

吉井勇

曼陀羅湯の名さへかしこしありがたき仏の慈悲にむとおもへば

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