佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』山陽線13 下関・阿弥陀寺 ― 2016年07月10日
関門海峡 火の山公園より
下関
中国の西南端にして下関海峡の北岸にあり。
早鞆の瀬戸のたか汐引島にただよひのこるあさがすみかな
(注:早鞆の瀬戸は関門海峡の東寄りに位置する瀬戸で、今関門橋が架かる。源平合戦の古戦場。)
早ともの早瀬に春の色みちて満珠干珠は汐ぐもりせり
早鞆の瀬戸の早潮緑潮朝日にかをるきさらぎ廿日
関門の海峡にして日がくれぬ旅にあることもすこし悲しき
阿弥陀寺
下関市の東方にあり。安徳天皇の御陵、また平氏一族の墳墓あり。
阿弥陀寺のふるき畳の匂ひさへ涙ぐましき春の日あたり
補録
下関
涙ゆゑ袖も赤間の関なれと頃はもみぢに枝かくせども
(「赤間の関」は下関の旧名。)
岩硯海より深く思ふぞよ顔は赤間の関のへだてに
(下関は硯の高級品赤間硯の産地としても知られた。)
周防の国富海より故郷へ送れる文の中に
ふるさとの花さへ見ずに豊浦の新防人と我は来にけり
(「豊浦」は下関市豊浦町に地名が残る。響灘に面する。幕末、外国艦船が停泊していた。)
桃柑子芭蕉の実売る磯街の露店の油煙青海にゆく
ひとかたに流るる渦の見ゆるまで中空の月海峡に照る
祝島
熊毛郡上関町。周防灘の東端の小島。
家人は帰り早来と祝島斎ひ待つらむ旅行く我を
心なき海士も春とや祝ひ島舟路のどかに波ぞかすめる
正月たつ今日にしあれやいはひじま小松がうれに鶴さはに鳴く
阿弥陀寺
赤間関阿弥陀寺と云ふ所に、安徳天皇の木像まします、拝したてまつるに住持法楽に一首と有りて、たんざくを出だされ侍るに
かくばかりいとけなき君をしづめきや此の浦つらき浪の上かな
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