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白氏文集卷二十 早冬2009年11月30日

早冬(さうとう)   白居易

十月江南天氣好   十月 江南 天気(ことむな)
可憐冬景似春華   (あはれ)むべし 冬の(かげ)の春に似て(うるは)しきことを
霜輕未殺萋萋草   霜は(かろ)(いま)()らさず 萋萋(せいせい)たる草
日暖初乾漠漠沙   日は暖かく 初めて()漠漠(ばくばく)たる(すな)
老柘葉黄如嫩樹   老柘(らうしや) 葉は黄にして嫩樹(どんじゆ)の如し
寒櫻枝白是狂花   寒桜(かんあう) 枝は白くして是れ狂花(きやうくわ)
此時却羨閒人醉   此の時(かへ)つて(うらや)間人(かんじん)()ふを
五馬無由入酒家   五馬(ごば) 酒家(しゆか)()(よし)も無し

【通釈】十月の江南は天気うるわしい。
愛しもうではないか、冬の光が春のように華やかなことを。
霜は軽く、萋々と繁る草をまだ枯らさない。
日は暖かく、漠々と広がる河原の砂を乾かし始める。
老いた山桑、その葉は黄に色づいて若木のようだ。
寒桜の樹、その枝が白く見えるのは狂い咲きの花だ。
こんな時節には、むしろ酔いどれの閑な御仁が羨ましい。
五頭立ての馬車で、居酒屋に乗り込むわけにもゆかぬ。

【語釈】◇十月 陰暦十月、初冬。◇江南 長江(揚子江)下流の南側。作者は五十代前半、江南の地方官を勤めていた。◇好 「()し」とも訓まれる。ここでは和漢朗詠集の古写本の古点の訓に従った。「ことむなし」は「こともなし」(太平無事である意)から来た語。◇冬景 冬の光。◇似春華 「春華に似たり」とも訓める。「春華」は春のはなやかさ。◇萋萋 草木が盛んに繁るさま。◇初乾 やっと乾かし始めたばかり。◇老柘 老いた山桑の木。◇嫩樹 若木。◇閒人 ひま人。官職に就いていない人。「閑人」とする本もあるが意味は「間人」と同じ。◇五馬 五頭立ての馬車。高級官僚の乗物。

【補記】我が国で言う小春日和を詠んだ歌。長慶三年(823)、作者五十二歳、江南杭州の刺史であった時の作。初二句が和漢朗詠集巻上冬の「初冬」の部に引かれ、和歌では句題に好まれた。

【影響を受けた和歌の例】
宵々にまだおく霜のかろければ草葉をだにも枯らさざりけり(大江千里『句題和歌』)
神無月いり江の南その里は空にぞ春のかげを知るらん(藤原隆房『朗詠百首』)
けふを冬とかへりてつぐる春の色はいかなるえより思ひそめけむ(慈円『拾玉集』)
この里は冬おく霜のかろければ草の若葉ぞ春の色なる(定家『拾遺愚草員外』)
神無月はるの光か晴るる江の南にめぐる空の日影も(武者小路実陰『芳雲集』)
冬来ぬと誰かはわかん江の南雲もしぐれぬこの頃の空(同上)

コメント

_ 三友亭主人gatayan ― 2009年11月30日 15時52分

閒人・・・いいですなあ・・・
いつかこんな身分に・・・
こんな季節、近くにある藤原鎌足ゆかりの談山神社あたりに繰り出し、紅葉を見ながら一杯としゃれ込みたいのですが・・・
まあ、こせこせとした毎日になれきっている私なんかは、そんな身分になったらきっと退屈するんだろうけれど・・・

_ 水垣 ― 2009年12月01日 23時16分

談山神社、紅葉はさぞ素晴らしいのでしょうね。
我が家の近所にも紅葉の名所と言われるところがあるのですが、なかなか機会に恵まれません。今年も見逃してしまいそうです。

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