菅家文草卷一 臘月獨興2010年01月17日

臘月に独り興ず  菅原道真

玄冬律迫正堪嗟  玄冬(げんとう) (りつ)()めて (まさ)(なげ)くに()へたり
還喜向春不敢賒  (かへ)りては喜ぶ 春に向ひて()へて(はるか)ならざるを
欲盡寒光休幾處  尽きなむとする寒光(かんくわう)幾ばくの(ところ)にか(いこ)はむ
將來暖氣宿誰家  (きた)りなむとする暖気(だんき) ()が家にか宿らむ
氷封水面聞無浪  氷は水面を(ほう)じて 聞くに浪なし
雪點林頭見有花  雪は林頭(りむたう)に点じて 見るに花有り
可恨未知勤學業  恨むべし 学業に(はげ)むことを知らずして
書齋窓下過年華  書斎の窓の(もと)年華(ねんくわ)(すぐ)さむことを

【通釈】冬も極まって一年も残り少なくなり、本当に嘆いても嘆き切れない。
一方では喜ぶ気持もある、季節は春に向かい、それが決して遠くないことを。
消え尽きようとする寒い冬の光は、あと幾箇所で休憩するのだろう。
訪れようとする暖かい春の気は、どこの家で宿を取るのだろう。
氷は水面を閉じ込めて、波の音も聞こえない。
雪は林の梢に積もって、花が咲いたようだ。
こんなことではいけない、学業に励もうとせずに、
書斎の窓の下でむなしく歳月を過ごしてしまうなんて。

【語釈】◇玄冬 冬の異称。「玄」は黒で、五行説では冬にあたる。◇律迫 度合いが甚だしくなって。冬が進行し、残り少なくなったことを言う。◇年華 年月。

【補記】臘月すなわち陰暦十二月に独り即興で詠じたという詩。「于時年十有四」(時に年十有四)の注記があり、菅原道真十四歳の作。和漢朗詠集の巻上「氷」に第五・六句「氷封水面聞無浪 雪点林頭見有花」が引かれている。土御門院が第六句を句題にして歌を詠んでいる。

【影響を受けた和歌の例】
氷みな水といふ水はとぢつれば冬はいづくも音無の里(和泉式部『和泉式部集』)
時雨までつれなき色とみしかどもときは木ながら花咲きにけり(土御門院『土御門院御集』)

雲の記録201001172010年01月17日

20100117_1534鎌倉市二階堂

ひさびさのすじ雲。鎌倉市二階堂にて、午後三時半頃。