白氏文集卷二十 紫陽花 ― 2010年06月22日
何年植向仙壇上
早晩移栽到梵家
雖在人閒人不識
與君名作紫陽花 君が
【通釈】いつの年、仙境の辺に植えたのか。
いつこの寺に移し植えたのか。
人間界にあるのに人は知らない。
君のために紫陽花と名付けよう。
【語釈】◇向 「於」の意の前置詞。◇仙壇 仙人のたちの住む場所。仙境。招賢寺のある霊隠山をこう言った。◇早晩 いつ。当時の俗語という。◇梵家 寺。招賢寺を指す。◇紫陽花 紫は神仙の色。陽は「ひなた」、易学ではプラスの意。
【補記】作者は次のように自注を添えている。「招賢寺有山花一樹、無人知名、色紫気香、芳麗可愛、頗類仙物。因以紫陽花名之」(招賢寺に山花一樹有り、人の名を知るもの無し。色紫にして気香ばしく、芳麗愛す可く、頗る仙物に類す。因つて紫陽花を以て之を名づく)。すなわち抗州霊隠山の招賢寺に植えられていた名の無い花に「紫陽花」の名を付けたことを詠んだ詩である。日本であじさいを「紫陽花」と書くのはこの詩に由来する。なお中国でもアジサイ=繡球花の別名として「紫陽花」が用いられている(中国版Wikipedia)。
下に引用した歌は、あじさいならぬ「しもつけ」の名を隠した物名歌。「つけん」は「付けん」とも「告げん」とも取れるが、白居易の詩を踏まえたのなら前者と解すべきだろう。
【影響を受けた和歌の例】
植ゑて見る君だに知らぬ花の名を我しもつけん事のあやしさ(よみ人しらず『拾遺集』)
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