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雲の記録(暑中御見舞)2010年08月03日


2010年7月16日午後2時53分神奈川県横須賀市佐島

暑中お見舞い申し上げます。
七月は各地で記録的な猛暑だったとのこと。まだ暑さは続きますが、立秋も近づき、僅かながら秋のけはいも感じられるようになりました。
写真は今日のでなく、梅雨明けて間もない頃の三浦半島の海岸で撮ったものです。佐島という、浜木綿の北限の自生地とされるところです。

浜木綿



和歌歳時記:昼寝 Siesta2010年08月03日

豚蚊取りと団扇(具満タンフリー素材)

炎天下の過労を癒し、また暑苦しい夜に不足しがちな睡眠を補ふために、夏は昼寝が奨励される季節だ。宮本常一『ふるさとの生活』によれば、夏の昼寝を義務づけてゐる村もあつたといふ。大阪平野のある村では、半夏生から八朔まで、すなはち旧暦の六・七月の二ヵ月間は、昼飯が済むと、太鼓を叩いたり法螺貝を吹いたりして、皆人に寝よとの合図をする。そしてまた一時経つと、起きよとの合図をしたといふのだ。宮本は各地を旅して、さういふ慣はしのある村が全国方々にあつたと言つてゐる。
そんな村里の民俗を偲ばせる歌がある。

『海士の刈藻』 夏旅  大田垣蓮月

里の子が(はた)織る音もとだえして昼寝の頃のあつき旅かな

里をあげて昼寝してゐるのだらう、しづまりかへつた夏の白昼、一村を通り過ぎる旅人。その目には見知らぬ村里が一瞬夢幻の世界に映つたはずだ。

『調鶴集』 夏井  井上文雄

(しづ)()は昼寝してけり水あまる庭の筒井に熟瓜(うれうり)ひやして

こちらも江戸末期の歌人の作。題詠とは言ひ条、属目の景をもとにしたと思はれる歌ひぶりだ。丸井戸から溢れる冷たさうな水、そこに浮ぶまるまると熟れた瓜。無防備な村女の、なんと満ち足りた昼寝つぷり。
江戸つ子の作者は田舎の風俗を愛し、田園を散策して飽きることがなかつた。「田家鶴」といふ題では、「葦鶴(あしたづ)に門田あづけて昼寝する老翁(をぢ)は千代ふる夢やみるらん」と、こちらは老いた農夫の昼寝を詠んでゐる。太平の眠りをなほ醒まされることのなかつた農村の風景だ。

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  『好忠集』(六月をはり) 曾禰好忠
妹とわれ寝屋の風戸(かざと)に昼寝して日たかき夏のかげをすぐさむ

  『兼澄集』(五月五日、()のもとにてうち休みたりしほどに女の入りにければ) 源兼澄
うたたねの昼寝の夢にあやめ草むすぶとみつるうつつならなむ

  『禖子内親王家歌合』(ひるのこゑ) 播磨
ほととぎす昼寝の夢の心ちして森の梢を今ぞすぐなる

  『聞書集』(嵯峨にすみけるに、戯れ歌とて人々よみけるを) 西行
うなゐ子がすさみにならす麦笛のこゑにおどろく夏の昼臥し

  『亜槐集』(昼恋) 飛鳥井雅親
かづらきの神やはかくる面影に昼寝おどろく夢の浮橋

  『柏玉集』(昼恋) 後柏原院
わりなしや昼寝の床にみし夢もまばゆきかたに向ふ日影は

  『亮々遺稿』(苦熱) 木下幸文
何事もただ倦みはつる夏の日にすすむるものはねぶりなりけり

  『草径集』(枕) 大隈言道
うたたねの昨日の昼寝思はせてありし所にある枕かな

  『調鶴集』(夏声)井上文雄
昼寝する枕にひとつ名のる蚊のほそ声耳を離れざりけり

  『志濃夫廼舎歌集』(独楽吟) 橘曙覧
たのしみは昼寝せしまに庭ぬらしふりたる雨をさめてしる時
たのしみは昼寝目ざむる枕べにことことと湯の煮えてある時

  『水葬物語』塚本邦雄
ひる眠る水夫のために少年がそのまくらべにかざる花合歡

(2010年8月18日加筆訂正)