佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』東海道線1 東京 ― 2015年02月12日
一 東海道線
東京
皇城
万代のかげこそこもれ宝田の千代田の宮の松のむら立
桜咲く御国しらすと百敷の千代田の宮に神ながらいます
まかがやく黄金御輦春風にかがやき出でぬ玉敷ける橋
東京駅
東京、東京、幾年われの思へりし都にまづぞ我は着きにける
日比谷公園
喨々と一すぢの水吹きいでたり冬の日比谷の鶴の嘴
銀座
ある朝の銀座の街の時計台ものめづらしく仰ぎつつ行けり
上草履午後の休みに出でて踏む銀座通りの春の土かな
上野公園
雨にして上野の山を我が越せば幌のすきまよ花の散るみゆ
動物園のけものの匂ひする中を歩むわが背の秋の日かげよ
上野山下枝を垂れてさく花のおくにどよめく桜人のとも
浅草公園
織るが如き人かげ絶えて浅草の御寺しづかに月さし出でぬ
打水が燈かげに光る仲見世の敷石ふめばさわやぐ心
隅田川
墨田川みのきてくだす筏士にかすむあしたの雨をこそしれ
隅田川花のよどみにうく鳥の桜羽ぎる春のゆふぐれ
すみだ川長き堤も春の日もみじかくなすは桜なりけり
よしきりや列をはなれて小さき帆の綾瀬に折れし昼下りかな
両国橋
光の華み空にみだれ大伝馬、小伝馬、艀、川をうづめぬ
東京こゝかしこ
大門の車庫の広場に品川の鷗の遊ぶ冬のあけぼの
よし町へ銀のたけなが買ひにゆく夜を美しう春の雨ふる
粉雪ふるいかだの上を白鷺がひよい〳〵歩む上木場の堀
霜白し愛宕の塔にぽつかりと朝日はさして夜あけぬるかな
つぎつぎに草の名を問ふ幼子と植物園をたどる春の日
池上本門寺
大森駅の附近、日蓮上人示寂の処。
池上や千部経よむ春卯月霞む野路ゆく人のむれかな
祖師ねぶる池上山のよひ月夜杉の上行く山ほとゝぎす
補録
東京
東北の町よりわれは帰り来てあゝ東京の秋の夜の月
隅田川
我がおもふ人に見せばやもろともにすみだ川原の夕暮の空(藤原俊成)
隅田川堤にたちて舟待てば水上とほく鳴くほととぎす(加藤千蔭)
つくばねの高嶺のみゆき霞みつつ隅田河原に春たちにけり(村田春海)
隅田川なか洲をこゆる潮先にかすみ流れて春雨の降る(井上文雄)
追ひつぎて花もながれむ角田川つつみの桜かげ青みゆく(大国隆正)
永代橋
永き代の橋を行きかふ諸人はおのづからにや姿ゆたけき(田安宗武)
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