佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』東海道線3 鎌倉・藤沢 ― 2015年02月14日
大船駅は横須賀線の分岐点なり。この線にて鎌倉、江の島、逗子、葉山等に到るべし。
鎌倉
鎌倉のよるの山おろし寒ければみなのせ川に千鳥なくなり
比企が谷鳴きつかれたる茅蜩の声のうちより夏の日くれぬ
汐あむと外国人もひろ袖の浴衣軽げに浜におりゆく
滑川芦のそよぎに心ひかれ遠世の人を忍びかにおもふ
しめりたる苔の香さむし星月夜かまくら山のおくつき所
極楽寺椿のまろ葉青光る日に温まり浪のおとをきく
山茶花も散りまじりたる落葉道薄日匂へり扇が谷は
太鼓うつ日朝堂のあさづとめ百日紅のはら〳〵とちる
鶴岡八幡宮
宮柱ふとしき立てて万代にいまぞ栄えむ鎌倉の里
水色の鎌倉山の秋かぜに銀杏ちりしく石のきざはし
長谷大仏
夜ふけて、大仏に詣でて
しづかなる月の光にながむればわれも仏にならんとぞ思ふ
○
鎌倉や御仏なれど釈迦牟尼は美男におはす夏木立かな
長谷観音
大慈大悲観世音菩薩ましませるみ堂の庭の朝桜かな
夕暮をおばしまにより歌思へば月長谷寺の上ににほへり
長谷寺やまうづる道の梅の花吾子にちり来て尊かりけり
はせ寺の若葉のひまを見え隠れ西洋人のさす日傘かな
稲村が崎
山井が浜西方の岬。
剣太刀とぎし心はわたつみの神もあはれとうけやしつらむ
七里が浜
かぢめ干す七里が浜の海士の子も秋風ふけばさびしといひぬ
朝の日が金の針もてまぶしくも冬の海面ちかちかとさす
一年も逢はざるが如すがりつく浜に遊びて帰り来し子が
腰越
鎌倉より江の島に到る間にあり。古くみこしの崎といへり。
鎌倉の見越の崎の岩壊の君が悔ゆべき心は持たじ
静かにもはまの露草目さめけりさぎりのうちのさざなみの歌
めづらしく雨ふるらむか波の音七里が浜のあたりにきこゆ
片瀬
鎌倉の西口。
片瀬川吾がのる小舟こぎなづみ夕潮ざゐに小いな飛びとぶ
わが宿の牡丹の花の客人は近きみ寺の白鳩の群
浜の草の葉ずゑの蛍風すずしく江の島の方へ飛びゆきしかな
片瀬のや御寺を近み我宿の軒にも鳩は飛びかひにけり
江の島
江の島へ通ふ海原路絶えて満ち来る春の汐の上の雨
江の島の岩が根ちかく近づきぬはるかに見えし沖の白帆の
鵠沼
片瀬の西。
わが庵は鵠沼のさと空青く松原つづく富士の裾まで
松多き砂原路をさく〳〵とふみ行く袖に粉雪ちり来る
松原につゞく麦畑雲雀うたふ声聞きつゝも遠く来にける
補録
鎌倉・鶴岡八幡宮
ま愛しみさ寝に我は行く鎌倉の美奈の瀬川に潮満つなむか
薪こる鎌倉山の木垂る木をまつと汝が言はば恋ひつつやあらむ
君まもる鶴の岡べの神垣によろづ代かけよ月のしらゆふ
鶴の岡や秋のなかばの神祭ことしは余所に思ひこそやれ
鎌倉の里にまかりて見けるに、あらぬさまに荒れはてて所々に神の御社などもかたばかりなる中に、荏柄の宮にまうでて梅のさきたるを見て
里ふりぬなに中々の梅が香は春やむかしも忘れぬる世に
木がくれに風をたためる心地して扇が谷はすずしかりけり
片瀬
浦ちかき砥上が原に駒とめて片瀬の川のしほあひぞまつ
うちわたす今や潮干の片瀬川おもひしよりも浅き水かな
かへりきて又見むこともかたせ川にごれる水のすまぬ世なれば
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