佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州89 気色の杜 ― 2019年08月03日
補録
気色の杜
鹿児島県霧島市国分。天降川河岸一帯の森。「気色(様子)」の意を掛けて用いられることが多く、中世以降は特に「秋のけしき」と掛けたり、時鳥と合わせて詠まれたりした。
我がためにつらき心は大隅のけしきの森のさもしるきかな
人の来たるを帰したるつとめて、いみじう恨みて、われこそかへれといひたるに
とまるとも心は見えでよとともにゆかぬけしきの森ぞくるしき
うらみしに思ひ得ざりき音に聞くけしきの森を見る人ぞとは
(注:作者は源経信の若き日の恋人で、経信との贈答歌群にある一首。あなたの心の裏を見たが、様子見ばかりしている人―風見鶏―とは思わなかったと、相手を非難した歌であろう。)
百首歌たてまつりける時、秋たつ心をよめる
秋の来るけしきの森の下風にたちそふものはあはれなりけり
秋ちかき気色の森になく蝉のなみだの露や下葉そむらん
明けわたるけしきの森にたつ鷺のうは毛もふかく雪は降りつつ
なかなかに木の葉隠れはあはれなり秋のけしきの森の月かげ
月にほふ気色の杜の時鳥いかにつれなきねをも惜しまじ
滝波を梢にかけて山深きけしきの森の蝉のもろごゑ
夜をのこすけしきの森の時鳥青葉がくれの露に啼くなり
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