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新刊のお知らせ 鉄道唱歌 全五集(電子復刊・注釈付)2019年08月05日

今回は少し毛色の違った本です。大和田建樹作詞・交通博物館編の『鉄道唱歌 全五集』(昭和40年交通博物館刊)の電子復刊です。五集合わせ、歌詞は全部で三三四番になります。

まず知らない人はないと思われる唱歌ですが、全曲通して読んだとか、歌ったとかいう人は、よほどの鉄道ファンか物好きでしょう。

歌詞は、大和田建樹が実際鉄道に乗り込み、全国を旅しつつ即興で作っていったというもので、いかにも即興的な軽さと愉しさをそなえています。とはいえ、古典研究家にして歌人でもあった作者だけあって、豊かな教養に裏打ちされた、なかなか読み応えのあるものです。

たとえば、東海道編の第一九番、興津駅と江尻駅(現清水駅)の歌詞は、

世にも名高き興津おきつだい
 鐘のひびく清見寺せいけんじ
清水しみずにつづく江尻えじりより
 ゆけば程なき久能山くのうざん

というのですが、なぜ前半二行の対句で「興津鯛」「清見寺」という異種の取り合わせがなされているのでしょう。そのヒントは第四行にある…といったような、謎かけ的な愉しさもあれば、第三集の奥州・磐城編の第十番、

きんと石との小金井や
 石橋すぎて秋の田を
立つや雀宮鼓すずめのみやつづみ
 宇都宮にも着きにけり

ここには東北本線(当時は日本鉄道奥州線)の四つの駅名が詠み込まれていますが、なぜ「宮鼓」などという語が突然挿まれているのでしょう。掛詞の技法に慣れた人であれば、すぐ判ることでしょう。鉄道唱歌には、しばしばこうした和歌的な技法が駆使されているのです。

交通博物館編の本では、鉄道に関する注釈・解説は充実しているものの、こうしたことまで詳しい説明はないので、鉄道唱歌をより深く味わうために、補注を付けて刊行しようと思い立った、というわけなのです。

ただ楽しく高唱し、明治時代の鉄道沿線の牧歌的な風景を楽しむだけで充分な鉄道唱歌なのですが、もう少し深い読み方をしてみたいという方には、ぜひお奨めしたい本です。

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