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佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州65 風流島2018年08月21日

風流島

補録

風流島たわれじま

熊本県宇土市、緑川河口の沖合にある小島。裸島はだかじまとも。『伊勢物語』の歌に詠まれて歌枕となった。『枕草子』にも名が見える。その名と、常に波に濡れる岩礁であることから、恋の歌で「濡衣」(浮名、実のない悪い噂)と関わらせて詠まれることが多い。

 

作者未詳(伊勢物語)

名にし負はばあだにぞあるべきたはれ島浪の濡衣ぬれぎぬ着るといふなり

たはれ島を見て
よみ人しらず(後撰集)

名にし負はばあだにぞ思ふたはれ島浪のぬれぎぬ幾夜着つらむ

女のあだなりといひければ

大江朝綱(後撰集)

まめなれどあだ名は立ちぬたはれ島よる白浪をぬれぎぬにきて

題不知
宗良親王(新葉集)

恋といへばあだなる波のたはれ島たはぶれにくきまでにかけつつ

歎無名恋
三条西実隆

くらべても無き名は憂しやたはれ島波のぬれ衣いつかほさまし

寄島恋
武者小路実陰

波枕夢にのみ見したはれ島それさへほさぬ濡衣も憂し

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州66 天草2018年07月12日

天草諸島

補録

天草あまくさ

肥後国・熊本県の一地方。郡の名であり、また宇土半島の西南にある群島の名。天草五橋によって九州本土と結ばれる。寛永年間、天草四郎(益田四郎時貞)を首領とした天草の乱が起り、キリシタンの島としても知られる。

 

海上眺望
加納諸平

天草やあめよりをち唐山からやまも雲になびきて日は暮れにけり

八田知紀

天草の上にかがやく夕づつの隠れぬほどに舟は漕ぎてよ

与謝野寛

天草の十三仏じふさんぶつの山に見る海の入日とむらさきの波

与謝野晶子

天草の西高浜の白き磯江蘇省かうそしやうより秋風ぞ吹く

天草の白鶴しらつる浜の黄昏たそかれ白沙しらすなが持つ初秋はつあきの熱

斎藤茂吉

高々たかだかと山のうへより目守まもるとき天草あまくさなだ雲とぢにけり

釈迢空

天草の瀬戸よりアメに漕ぎいでて、いにしへびとは、還らざりけり

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州64 宇土2018年07月10日

宇土より有明海を望む

宇土半島より有明海・雲仙普賢岳を望む

補録

宇土うと

熊本県にある半島の名、また市の名、また肥後国・熊本県にかつてあった郡の名。「宇土(宇戸)の小島」「宇土の長浜」が歌枕とされた。宇土半島は島原湾・八代海に面し、尖端の三角港(宇城市)から天草諸島への船便がある。

 

藤原忠通

ながむれば思ひ残せることぞなき宇戸の小島の有明の月

腹赤御贄
四辻善成

初春の千代のためしの長浜につれる腹赤はらかもわが君のため

(貞治五年―1366年―二条良基主催の『年中行事歌合』出詠歌。良基の判詞に「景行天皇の代、筑後国宇土郡長浜にて此魚をつりてたてまつりけるを、年ごとの節会に供すべき由定めおかれたるなり」とある。)

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州63 白川2018年05月20日

阿蘇白川 水源附近 「キロクマ」フリー写真

阿蘇白川 水源附近

補録

白川

阿蘇山に発し、熊本市内を流れて有明海に注ぐ。

 

筑紫の白川といふ所に住み侍りけるに、大弐だいに藤原興範おきのりの朝臣のまかりわたるついでに、水たべむとて打ち寄りて乞ひ侍りければ、水をもていでてよみ侍りける

檜垣嫗ひがきのおうな(後撰集)

年ふれば我が黒髪も白河のみづはぐむまで老いにけるかな

(注:「白河のみづはぐむ」、「(黒髪が)白くなる」「白川の水は汲む」「瑞歯ぐむ」の掛詞。「瑞歯ぐむ」は老いて一度抜けた歯が、長寿の末に生え替わる意。)

肥後国の白川をわたりて
細川幽斎

ながれてのなほ行末を頼むかな身は白川のあはと見ながら

(注:「泡(あは)」に「彼(あ)は」を掛ける。「あれは」の意にも、はっと気づいた時などに発する感嘆詞(「ああ、さては」)としても遣われた語。)

安永蕗子

町なかを流れやがては南下する徐調白川当面のおい

ふりかへる阿蘇山間を端として水の白川未明の白霧はくむ

(注:安永蕗子〔1920-2012〕は熊本出身の歌人。生地は白川の右岸という。)

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州62 水前寺2018年05月19日

水前寺成趣園

水前寺

熊本より宮地線軽便鉄道あり。その水前寺駅にあり。庭園を成趣園じようじゆえんといふ。(注:細川忠利が初め禅寺として創ったが、のち別荘とした。JR豊肥本線新水前寺駅、または路面電車水前寺公園下車。)

 

高橋刀畔

美しき水の中なる砂掻きて水前寺菜をまきてありけり

補録

太田水穂

暮れのこるさくらの奥に墨染の夕べの水は暗くただよふ

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州61 熊本2018年05月01日

熊本城(2015年)

熊本城(2015年)

補録

熊本

九州中央部の県。旧肥後国。またその県庁所在地である市。

 

熊本なる細川家別邸に、玄旨げんし法印ほういん書写の典籍を見る

佐佐木信綱

むかしびと心のどやかにまめやかに合戦たたかひにも写しし歌書うたぶみ

(「玄旨法印」は細川幽斎。)

谷村計介銅像
太田水穂

さき散らふ花やいくたびここにしてあはれなるべき人のいでたち

(谷村計介は日向国出身の軍人。明治十年、西南戦争において熊本城が薩摩軍に包囲された際、脱出して官軍と連絡を取り、官軍の勝利に貢献したが、田原坂の戦いで戦死した。享年二十三。熊本城内に銅像がある。)

斎藤茂吉

竹炭たけすみを焼きはじめたるはうたり熊本くまもとあがたの山のかひより

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州60 阿蘇(阿蘇の里)2018年03月23日

「天空の道」と阿蘇の里(キロクマ)

阿蘇市道狩尾幹線、通称「天空の道」と阿蘇の里(キロクマ!著作権フリー写真)。「天空の道」は熊本地震により崩潰し、現在も復旧されていないという。

阿蘇あそ

阿蘇火山の山ふところの地方。阿蘇神社あり。(注:熊本県北東部。平成三〇年三月現在、市郡としては阿蘇市・阿蘇郡がある。なお阿蘇山は前々項参照。)

 

高木順

み田植の今日にしなれば玉ちはふ神のみ輿こしに苗たてまつる

さ夜ふけてつるぎぬきもちみやが立まふ袖に秋の霜おく

火焼屋ひたきや六十日むそかこもりしをとめ子が炎の中を今わたる見よ

阿蘇をこえて
釈迢空

盆すぎて をどりつかふる里のあり。阿蘇の山家やまがに、われもをどらむ

補録

若山牧水

山鳴に馴れては月の白き夜をやすらに眠るの国人よ

風さやさや裾野の秋の樹にたちぬ阿蘇の月夜のその大きさや

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州59 草千里2018年03月19日

阿蘇 草千里

補録

草千里くさせんり

阿蘇五岳の一つ烏帽子えぼしだけ北斜面の火口跡。直径約一キロの広大な草原をなす。草千里浜・草千里ヶ浜とも。なお阿蘇山火口の南東側には砂千里・砂千里ヶ浜と呼ばれる黒砂の荒野があり、緑の草千里と好対照をなす。

 

与謝野寛

沙千里すなせんり草千里浜おほ阿蘇の霧は万里につづくなりけり

吉井勇

大阿蘇の千里が原のはなち馬雲にいななく夏は来にけり

中村憲吉

山のうへに草千里浜とは寂しけれ雲がたちまちひくく時雨しぐれつ

来る人も霧の晴間に見えわたり一目にひろし砂千里浜

初井しづ枝

雨の日を濡れて相寄るあめ牛にみどり映えつつ草千里浜

佐藤佐太郎

雨のふる草千里浜のところどころ光たたへてとどこほる水

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州58 阿蘇山2018年03月18日

阿蘇中岳

阿蘇中岳

阿蘇あそ

熊本の東方に聳ゆ。宮地線によりて近づくべし。(注:宮地線は現在はJR豊肥本線の一部として運行。また山の南側は南阿蘇鉄道高森線が通る。なお「草千里」「阿蘇(阿蘇の里)」は別項。)

 

与謝野寛

けぶり見ゆ阿蘇の裾野をわが乗れる車の馬のたつ髪のまへに

新開竹雨

大空に紫の花あけの花ゆふ日にけむる阿蘇の山なみ

田居守夫

あまくさの海の彼方にうすづく日静かに照れり神のけぶりに

補録

池(永久百首)
源俊頼

世にわびて波たちまちに過ぐなれど阿蘇の御池みいけぬさたてまつる

阿蘇の宮
藤原基長

今はとてしものはふり子いとまあれや阿蘇の御山みやまに雪のつもれる

この歌は、宇佐の使にてくだり侍りける時、あその社にまうでて雪のつもれるをみてよめると云云

落葉
正徹

のこらむは片野の木の葉木枯らしの夕刈りすつる阿蘇の山風

阿蘇ぶり
佐佐木信綱

人いまだ生れず神と鬼とのみ住みけむ世よりもゆる山かも

大阿蘇の渓谷けいこくふかし秋風にさびしきうたをうたふ水かな

与謝野寛

阿蘇平あそだひら風なき昼も御空みそらよりすすきして白き灰降る

阿蘇ゆけば悲しきしき人の世も我が全身に汗して忘る

太田水穂

のぼりゆく高原の秋の夕晴にさやけく白く阿蘇の山みゆ

ひたもえにもえにぞもえて阿蘇の山ひと木をだにもひしめぬかな

若山牧水

麓野ふもとのの国にすまへる万人ばんにんを軒に立たせて阿蘇荒るるかな

吉井勇

君にちかふ阿蘇の煙のたゆるとも万葉集の歌ほろぶとも

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州57 久住山2018年03月04日

久住山(おおいた風景写真集)

補録

久住山くじゆうさん

九重連山の主峰。大分県竹田市。南麓一帯に広がる久住高原は、薄・笹などが群生する大草原をなす。

与謝野寛

大いなる師に近づくと似たるかな久住の山にひかるる心

与謝野晶子

久住山阿蘇のさかひをする谷のほかは襞さへ無き裾野かな

北原白秋

草深野くさふかのここにあふげば国のや久住はたかし雲をうみつつ

浅利良道

ひむがしるる蒼山かへりみて久住裾山みな時雨たり