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佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州75 宮崎神宮2019年04月21日

宮崎神宮

宮崎神宮

花ヶ島駅に近し。いにしへの高千穂宮の址と伝ふ。(注:宮崎県宮崎市。「花ヶ島駅」は今の日豊本線宮崎神宮駅。神武天皇を祀る宮崎神宮へ、駅前から参道が延びる。)

前田利定

青葉若葉五月雨さみだれ煙る朝まだきぬれてたたずむ神のひろ前

倉知常隆

あまつみ神おりまししより斧入れぬ日向の森にしづむ赤き日

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州74 美々津2019年04月19日

立磐神社 神武天皇御腰掛岩

立磐神社 神武天皇御腰掛岩

補録

美々津みみつ

宮崎県日向市南部、美々津町とその周辺地域。耳川河口の港を中心に古来栄えた。神武天皇が東征の際ここから出航したとの伝説があるが、記紀には記述がない。美弥津とも。

 

佐佐木信綱

御船なべ船出ましけむ遠つ代の朝の日を思ふ光れる海に

川口の瀬折せをりの浪のゆれかさなりゆるる小舟に美弥みみ川わたる

川田順

いかさまに越えましけめかここにして速吸はやすひ迫門せとは雲居はるけし

(美々津権現崎歌碑)
若山牧水

海よかげれ水平線のくろみより雲よ出で来て海わたれかし

大石田・尾花沢・銀山温泉2019年02月19日

山形を一泊旅行して来ました。歌等と関係あるところを中心に、メモしておこうと思います。

午後一時、新幹線で大石田下車。駅を出ると雪がちらついていました。
大石田と言えば芭蕉と茂吉です。
観光タクシーを頼み、最上川へ向かう途中、運転手さんが、斎藤茂吉の疎開していた聴禽書屋が近いと言うので寄ってもらいました。

聴禽書屋

聞きしにまさる豪雪の中に埋もれています。歩道の脇には人の背丈を越える雪の壁。
「日本三雪」といって、出羽尾花沢は飛騨高山・越後高田と並ぶ三大豪雪地帯だそうです(大石田駅を出るとすぐ尾花沢市域です)。
歌集『白き山』の数々の名作を生んだ家と思えば感慨は深いのですが、あいにく現在内部は見学不可のよう。

最上川を橋の上から眺めた後、芭蕉・清風資料館を見学。他に客はなく、館長さんが委しく説明して下さいました。芭蕉が尾花沢に10日も泊まった――「奥の細道」の旅では他を圧しての長い滞在――ということが尾花沢の人たちの誇りとするところのようです。
なお鈴木清風は紅花で巨富を築いた地元の豪商で、俳句も嗜み芭蕉の門人だったとのこと。
徳良湖の白鳥などを見物したのち、銀山温泉へ。午後四時着。

銀山温泉

古山閣という古い旅館に泊まりました。ガス灯がともる頃、妻と散歩。温泉街はほんの200メートルくらいでしょうか。写真を撮りにわざわざ立ち寄る人も多いようで、賑わっていました(やはり外国人観光客が多い)。お湯はなめらかで、熱さも程良く、大変気持良かったです。
茂吉はここでも歌を残していて、「蝉のこゑひびかふころに文殊谷吾もわたりて古へおもほゆ」という歌の碑が温泉街の外れにあるはずなのですが、どうやら雪に埋まってしまっていたようです。

翌朝、大石田へ戻る。旅館の送迎バスから、出羽山地が眺められました。正面に映っているのは葉山?

尾花沢市内より出羽山地を望む

好きな茂吉の歌を思い出しました。

 山脈が派動をなせるうつくしさ直(ただ)に白しと歌ひけるかも

バスを降り、再び最上川へ。
最上川というと、古典和歌でも歌枕になっているのですが、やはり何と言っても芭蕉の句と茂吉の歌でしょう。その日は穏やかな天気に恵まれ、「五月雨をあつめてはやし」と詠まれた川も、ただ悠然と流れていました。

最上川 大石田



(茂吉の歌より)
 最上川の上空にして残れるはいまだうつくしき虹の断片
 おほどかにここを流るる最上川鴨を浮べむ時ちかづきぬ
 最上川逆白波のたつまでにふぶくゆふべとなりにけるかも
 あまぎらし降りくる雪のおごそかさそのなかにして最上川のみづ

温泉も最上川も良かったのですが、いちばん印象に残ったのは、東北の白い山々でした。大石田では、雪に埋もれた水田越しに、奥羽山脈が南北に延々と伸びているのを見渡せるところがありました。タクシーの車中からだったのですが、運転手さんが「あの山の向こうが宮城県です」と言っていました。まさに東北の脊梁を眺めている気分でした。

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州73 尾鈴山2018年11月15日

尾鈴山(みやざき観光情報フリー写真)

補録

尾鈴山おすずやま

宮崎県児湯郡。都農つの町と木城きじよう町にまたがる山。古くは新納にいろ山といった。若山牧水はこの山の北、日向市(旧東臼杵郡)東郷町坪谷の生まれ。

 

若山牧水

ふるさとの尾鈴の山のかなしさよ秋もかすみのたなびきて居り

安田尚義

尾鈴山ひとつあるゆゑ黒髪の白くなるまで国恋ひにけり

長谷川銀作

宮崎より見ゆる尾鈴の山なりの一きはしたし秋の霞に

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州72 延岡2018年11月07日

延岡市 城山公園 みやざき観光情報フリー写真

延岡城址

補録

延岡

宮崎県北部の市。もと内藤氏の城下町。市内を流れる五ヶ瀬川では鮎漁が盛ん。延岡城址のある城山で撞かれる時の鐘も名物の一つ。

 

五ヶ瀬川
佐佐木信綱

雨の後のながれするどしながれに立ち鮎かけ人は日暮るるも知らに

(城山公園歌碑)
若山牧水

なつかしき城山の鐘鳴りいでぬをさなかりし日聞きしごとくに

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州71 高千穂峡2018年11月05日

高千穂峡 紅葉(みやざき観光情報フリー写真)

補録

高千穂峡

宮崎県西臼杵郡高千穂町。五ヶ瀬川沿いに断崖絶壁が続く峡谷をなす。天孫降臨伝説の地とされ、天岩戸神社、天安河原あまのやすかわらなどがある。周辺の各地区に伝わる高千穂神楽(岩戸神楽・夜神楽)も名高い。(高千穂峰は別項。)

 

海上胤平

焼太刀やきたちをまくらとなして高千穂の鬼の岩谷いはやにこよひ寝にけり

川田順

はろかなる神代はここにはじまりぬ高千穂村の山青くして

木俣修

ひたにす狭霧とほしてたまゆらは深渓ふかだにたぎつ青水沫みなわ見ゆ

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州70 日向2018年10月23日

日南海岸

補録

日向

宮崎県の旧名。もとヒムカと言った。天孫降臨神話の舞台。

 

佐佐木信綱

秋の風遠上とほかみつ代のすめろきの都しましし日向路に入る

斎藤茂吉

かすかなるひかり海よりのぼりくる日向ひうが のあかつきの国のいろはや

若山牧水

日向の国むら立つ山のひと山に住む母恋し秋晴の日や

四賀光子

野を過ぎて暫く細き長き町出づれば又も麦の日向路

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州69 祖母山2018年10月10日

祖母山

補録

祖母山

宮崎・大分・熊本三県にまたがる山。九州山地中央部の主峰。山名は、神武天皇の祖母豊玉とよたま姫を祀る石の祠が山頂にあることに由来する。

 

前田夕暮

日はあかく照りとほりつつそそりたり祖母山のに雪ふりにけり

持田勝穂

波野なみの高原いろかはるところおのづから祖母そぼぞ起れり群山を裾に

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州68 球磨川2018年09月19日

球磨川

補録

球磨川

熊本県南部の人吉盆地・八代平野等を流れ、八代海(不知火海)に注ぐ。

 

肥後に入る
長塚節

球磨くま川の浅瀬をのぼる藁船わらぶね燭奴つけぎの如き帆をみなあげて

斎藤茂吉

球磨川く ま がはの岸に群れゐて遊べるはここの狭間はざま うまれし子等ぞ

みぎはには冬草ふゆくさいまだ青くして朝の球磨川ゆ霧たちのぼる

中島哀浪

川千鳥鳴けば見おろす球磨川の瀬の音たかし霧の底より

吉野秀雄

球磨川の遠つみなかみにおのづから生ふる茶の木の新芽とぞいふ

佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』九州67 鏡の池(八代の池)2018年08月31日

補録

鏡の池(八代の池)

八代市は熊本県中部、球磨川の河口に臨む市。もと細川氏の支藩松井氏の城下町。不知火海(八代海)に面す。「鏡の池」はかつて湿地帯を成していたという八代の沿海部にあった池で、今八代市迎町に鏡の池跡があり、また鏡町の鏡ヶ池公園には小さな池が残存する(もとの鏡の池との関連は不明)。ここでは毎年四月二十七日鮒取り神事が行われている。

 

永久四年百首、池
太皇太后宮肥後(夫木抄)

みさび居ぬ鏡の池に住む鴛鴦をしはみづから影をならべてぞ見る

肥後の国八代にとどまりける日、池を見侍りて

細川幽斎

影も見じ日数をうつす旅衣身をやつしろの池のかがみに

題不知
相良義陽さがらよしひ

水の上に立つ朝霧は曇れども磨け鏡の池の秋風

月の歌の中に
契沖

塵もゐぬ鏡の池のきよければ水なき空にかよふ月かげ