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佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』東海道線5 茅ヶ崎~湯河原2015年02月16日

こゆるぎ(こよろぎ)の磯 神奈川県大磯町


東海道本線に立ち帰りて西すれば程なく茅が崎に到る。

茅が崎

北一里に大岡越前守の墓あり。

原田嘉朝

花と散り玉とくだくる白波に光を添へて月は出にけり

桑木素子

姥島はうす暗き海に黙しをり淋しきうたを波はさゝめく

踏切をこえてゆく頃落日の前にたゝずむ山のむらさき

大岡忠相の墓に詣でゝ
穂積陳重

問ひてまし語りてましをあまた世をへだててけりな道の友垣

平塚

川田順

鳴くは雲雀樹は皆松の平塚の浜街道を大磯へゆく

平沼文子

大名の行列のさまふと思ふ東海道の松並木道

大磯

岡田春湖

かさなりあふ岡辺の庭の白梅はかつ〴〵咲きて夕日にてれり

西升子

磯山の松の葉越の月もよし遠く聞ゆる浪の音もよし

一しきり降て晴にし夕立に花水川はうはにごりせり

鴫立つ沢

大磯にあり。

西行

心なき身にも哀は知られけり鴫立つ沢の秋の夕ぐれ

飛鳥井雅章

あはれさは秋ならねども知られけり鴫たつ沢の昔たづねて

伊藤梅子

鴫たちし昔の秋は知らねども今はた寂し夕暮の雨

淘綾こゆるぎの磯

大磯、二ママ宮、国府津付近の海岸をいへり。

よみ人知らず

こよろぎの磯立ち馴らし磯菜つむめざしぬらすな沖にをれ浪

細川幽斎

見るがうちに磯の浪わけこよろぎの沖に出でたる海士の釣舟

原田嘉朝

こゆるぎの磯うつ浪のしぶきより朝霧立て秋は来にけり

高田相川

高麗山は青葉の袖におほはれて夏になりぬるこゆるぎの磯

国府津より小田原、箱根へ電車あり。小田原より湯河原、伊豆山熱海へ軽便鉄道あり。

小田原

後北条氏数代の旧地、二宮神社あり。小峯の梅林あり。

二宮尊徳

日々〳〵につもる心のちりあくた洗ひ流してわれを尋ねむ

佐佐木信綱

秋風は海を渡りて小田原の庇みじかき町並を吹く

東一雄

小峰のやなぞへにさける梅林子ら喜びてのぼりおりすも

石橋山

小田原より南一里。源頼朝挙兵の古戦場。

川田順

なでしこのむれ咲く岩をあらけなく槌もてくづす石橋の山

熱海途上
玉木雪堂

真鶴の岬を遠く走り行く帆を張る船の三つ四つ二つ

平沼呉岳

天の恵つちのうるほひゆたかなる伊豆に幸あり此柑子みよ

佐佐木信綱

大春は未だ来らずしかすがに枯草山のいただき霞めり

湯河原

湯河原温泉街

小田原の南方、相模と伊豆との国境をなせる渓谷。

作者不詳

足柄の土肥の河内にいづる湯の世にもたよらころがいはなくに

高田相川

神の代に神のほりけむ古へゆ今もかはらぬ伊豆の走り湯

遠山の峯紫にくれそめてともし火匂ふ湯の山の里

吉田久弥

湯の宿のおばしま淡き薄月夜そともの沢に河鹿声する

高木真藤

伊豆の国いでゆの村の日うら〳〵こがねたわゝにみのる橘

西升子

藤木川清き流のむかう前きぬ洗ふとて今朝も賑はふ

大村八代子

湯河原や町の中ゆく藤木川瀬のにまじるうぐひすの声

補録

大磯

海辺鵆
長塚節

昨日こそうしほあみしか大磯のいそふく風に千鳥なくなり

淘綾の磯

右近

逢ふことをまつに月日はこゆるぎの磯に出でてや今はうらみむ

源兼澄

わかめ刈る春や来ぬらむこゆるぎの磯のあま人波にまじれり

こよろぎの磯といふところにて、月を見て
吉田兼好

こよろぎの磯より遠く引く潮にうかべる月は沖に出でにけり

賀茂真淵

百くまのあらき箱根路越え来ればこよろぎの磯に浪のよる見ゆ

湯河原

与謝野晶子

湯気白し藤木の流とどめんとするにもあらず添ひて流るる

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