佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』東海道線6 伊豆半島 ― 2015年02月17日
伊豆山
小田原より南方約六里の海岸にある温泉地。
伊豆の国山の南に出づる湯のはやきは神のしるしなりけり
渡つ海の中に向ひていづる湯のいづのお山とうべもいひけり
伊豆山のつら〳〵椿花ゆ花に小鳥あさるなりながき春日を
なみの音を日々の友とし暮す身に海静なるは物たらぬかな
あたたかき弥生なかばを伊豆山のだん〳〵畑麦長うして
波にまかれよせては返す磯の小石音の寒しも日のくれゆけば
梅雨のふりみふらずみ濃く薄く墨絵に似たる伊豆の島山
熱海
小田原より南方七里の海岸にある温泉地。
伊豆の海のかつをつり舟幸を多みゆくら〳〵に漕ぎ帰るみゆ
しづかなるあたみの浦の春雨に釣する海人の船ぞかずそふ
いつまでもここに住まばや大島も小島もおのが物がほにして
吹く風に浪のうき霧ややはれて錦が浦ぞ月になりゆく
伊豆の海静かに晴れて大島の三原の山に雪降れる見ゆ
雨晴れて海の静けさ初夏の沖の初島ねむれるごとし
大戸あけて買物に出づる夜の女湯の里なれば艶なる初春
明わたる浦の初島はつ雪のちりかふ空に千鳥なくなり
梅林の梅まだ早し人稀に蜜柑うる子の寒き顔かな
線ひきて汽船は伊東へ出でにけりその道たどりわが心ゆく
海静かに伊豆山沖の真白帆の二枚張まで見ゆるあかるさ
日金山
また十国峠といふ。
富士の嶺もあしたか山もうち霞み楽しみてこし心たがひぬ
日金山十国のながめ春の日をひねもす見てもあかじとぞ思ふ
雲の影ちがやの山を走りゆけばほじろ山がら空にむれ立つ
伊東
熱海より南方数里の海岸にある温泉地。
船酔も忘れはてつつ湯の宿のおばしまによりて海を眺めぬ
真昼日のまぶしき庭のかたすみの百日紅に海の風ふく
音無の森の朝かぜ秋めきてあるかなきかの虫の声する
雨の日や貝がらちれる磯町をありきなづみぬ病む子たすけて
若々しき湯女のわらひ声海の音鶯のねに一日くれぬる
下田
伊豆南端の港。
秋風の天城嶺こえて此夕べ下田の海に雁が音きゝぬ
伊豆の海の下田の港そのかみを忍びつつ沖の波をみるかな
街道を遠く来ぬれば田の果に下田は煙うちなびきつつ
大島を背面になして行く舟の真帆吹き送る山おろしの風
補録
伊豆山
影ともにふもとの海に落ちてけり東の月のいづの山風
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